映画『丑三つの村』感想・考察(ネタバレあり)

松竹

映画『丑三つの村』は西村望(ぼう)のノンフィクション小説を原作として1983年1月15日に公開。1938(昭和13)年に岡山県で起こった「津山事件」をモチーフに、寒村にはびこる忌まわしい因習や排他的な村人たちの気質が描かれています。

【主なキャスト】

  • 犬丸継男:古尾谷雅人
  • やすよ:田中美佐子
  • おばやん:原泉
  • 赤木ミオコ:五月みどり
  • 赤木勇造:夏木勲
  • 赤木中次:石橋蓮司
  • 千坂えり子: 池波志乃
  • 竹中和子:大場久美子

あらすじ

昭和13年、岡山県こぐれ村に暮らす犬丸継男は村一番の秀才と言われていた。継男は兵役に就いて国のために戦うことを夢見ていたが、肺結核のために徴兵検査で不合格となる。噂は村中に広まり、村人たちは態度を一変させて継男と距離を置く。

居場所を失った継男は、自分をさげすんだ村人たちに復讐するため銃と日本刀で武装し、村人たちを次々と襲撃していく。

現代でも続く日本社会の恥部を暴く

今作は「津山事件」または「津山30人〇し」と呼ばれる、昭和13年に岡山県の寒村で起きた事件がモチーフになっています。事件の概要をWikipediaで見るかぎり、今作はかなり事実を忠実に再現しているようです。また、この事件は横溝正史の『八つ墓村』でもモチーフにされています。

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明治から昭和にかけての日本は戦争続きで、男は兵士として国のために戦うことが名誉とされていた時代でした。

今作の主人公・継男も戦地で戦うことを夢見ていましたが、肺結核のために徴兵検査で不合格とされてしまいます。村人からは神童と呼ばれてきた継男にとっては、人生初の挫折経験となりました。

現代人の感覚からすれば「不合格? ラッキーじゃん!」てなもんですが、時代が違えば人の心も違います。当時でも不合格で胸をなでおろす人はいたでしょうが、継男のように恥と思う人も少なくなかったでしょう。

このころの日本は肺結核に罹患する人が多く、『男はつらいよ』シリーズの寅さんこと渥美清も若いころに肺結核を患い、片方の肺を摘出する大手術を受けています。

肺結核は昔の病気と思いがちですが、じつは今でも途上国を中心に世界で1000万人以上が罹患している「現役の病気」です。

肺結核は空気感染するため、村人からすれば継男はウイルス扱い。兵士としてお国のために戦う夢は叶わず、村人たちからは手のひらを返されたことで、心中は悔しさでいっぱいだったでしょう。

もちろん継男の凶行は許されることではありませんが、純朴な一人の青年をそこまで追い込んだ村人たちにまったく非はなかったかと言うと、そうは言い切れません。

近ごろでは「多様性」とか「ダイバーシティ」なんて言われ、中には「俺は俺、私は私」のような自分勝手を認めろと誤った主張をしている人も見られます。

しかし、ほんとうの多様性は、それぞれの個性や属性の違いを認めあったうえで調和を図ろうとすることです。

そうでなければ「オレは勝ち組、オマエは負け組。それも多様性だろ?」と弱者の切り捨てが正当化されることにもなり、いつまでも社会への恨みによる犯罪はなくならないでしょう。

無差別〇人や通り魔など、毎年のように繰り返される事件の背後には、経済効率ばかり追い求めて歪んだ社会に追いやられた弱者の怨恨が動機の一因と言えます。

継男のモデルとなった都井睦雄の遺書には、「病気四年間の社会の冷胆、圧迫にはまことに泣いた」とあります。自分たちのためにならない者は排除する村社会の論理は、現代でも学校でのいじめや職場でのパワハラ、そして経済格差まで自己責任として放置する日本という大きな村にも当てはまります。

今作は昔あったひどい事件を描いているだけでなく、それから80年以上経った今でも続く日本社会の暗部を暴いているように感じます。

ベテラン俳優陣 vs 若手俳優陣のコントラスト

今作には村の因習として「夜這い」が繰り返し描写されています。池波志乃や五月みどりら熟女たちのお色気シーンは男性にとって見どころですが、その一方では当時24歳だった田中美佐子の瑞々しい美しさが、なまめかしい熟女たちとは対照的に輝いています。

主人公の継男を演じた古尾谷雅人は1980年の『ヒポクラテスたち』、1981年の『スローなブギにしてくれ』などに主演して俳優としてキャリアを積んでいましたが、彼もまだ25歳の若手俳優でした。188㎝の長身と端正なマスクは、生きていれば海外での活躍もあり得たかもしれません。

継男が自分の首を紐で絞めるシーンを見ると、その後の古尾谷雅人の最期を予期しているようで複雑な気持ちになります。

継男が仕留めそこなったと悔やむ村人のリーダー格を演じた夏木勲(夏八木勲)はタフな男を演じたら絶品。

1977年の『八つ墓村』では村人たちに騙され惨死した落ち武者を1979年の『戦国自衛隊』では上杉謙信と名のる前の長尾景虎を怪演しました。個人的には1974年から1年間に渡って放送されたNHKの連ドラ『鳩子の海』での矢部天兵役が記憶に強く残っています。

石橋蓮司は性根の悪い曲者からコミカルな役までこなす怪優。1980年1月22日に放送された『探偵物語』では、「この男は酒飲んで現場に入るしセリフの覚えも悪い。他の番組の方は石橋蓮司を使わないように」と予告編で松田優作に言われていましたw

『八つ墓村』や『丑三つの村』のような岡山県を舞台にした作品は今では作れないかもしれません。岡山県の人たちにとってもモチーフとなった『津山事件』は不名誉な歴史として触れられたくない禁忌事項でしょう。

しかし今作で描かれている事件はけっして昔の話ではなく、今でも形を変えて繰り返されています。

「ソーシャル・ディスタンス」と称して互いに距離を取り合う。マスクをしないだけでも他人に怒鳴りつけられる。

新型コ○ナでは、今でも根強く残る日本社会の陰湿で不寛容な「村気質」が暴かれました。

そして今、C国とR国が台湾や日本への侵攻を企んでいますが、二度と戦地へ行くことが名誉だなんて風潮を繰り返してはならないという、現代へのメッセージかもしれません。

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