ドラマ『犬神家の一族(’77年)』京マチ子の怖いほど妖艶な美しさ

TVドラマ
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作品概要

1977年に放送されたドラマ『犬神家の一族』は、古谷一行がはじめて金田一耕助を演じた作品。前年に公開された劇場版とは趣きが異なりますが、連続ドラマとして時間に余裕があるため、キャラクターの性格やストーリーなどがていねいに描かれて、映画よりもストーリーの展開がわかりやすくなっています。

当時としても出演者は豪華な顔ぶれですが、とくに犬神家の長女・松子を演じた京マチ子は怖いほどの美しさと迫力です。

主なキャスト・スタッフなど

  • 金田一耕助:古谷一行
  • 犬神松子:京マチ子
  • 犬神佐清 / 青沼静馬:田村亮
  • 野々宮珠世:四季乃花恵
  • 古館弁護士:西村晃
  • 橘署長:ハナ肇
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感想(レビュー)

このブログでは角川映画の第1作目となった1976年の『犬神家の一族』、それから30年後の2006年のリメイク版をレビューしてきましたが、今回はいよいよ古谷一行が主演したテレビドラマ版となります。

ドラマ『犬神家の一族』は、1977(S52)年4月2日から30日まで毎週土曜日の夜22時から22時55分まで全5回シリーズとして放送されました。初回の視聴率はなんと40%以上を記録! 主演の古谷一行はこれ以降も『本陣殺人事件』や『悪魔が来りて笛を吹く』など一連の「横溝正史シリーズ」で金田一耕助を好演し、彼の代表作の一つとなりました。

この前年には石坂浩二が主演した映画『犬神家の一族』も大ヒットしましたが、時間的な制約のためかストーリーを「はしょった」感が否めず、1回観ただけではわかりにくいのが難点でした。しかし、ドラマ版は時間的に余裕があるためかストーリーがわかりやすく、主要な登場人物もそれぞれの性格づけが映画版よりもハッキリしています。

主人公の金田一耕助も映画の石坂版はひょうひょうとした生活感のないキャラでしたが、古谷版は事務所の家賃も払えないほどの貧乏ぶり。しかし、石坂版より明るく俗っぽい性格で親しみのあるキャラクターとして描かれています。

犬神佐兵衛の娘たち松子・竹子・梅子、その子どもらのスケキヨ・スケタケ・スケトモ・小夜子らも、映画よりそれぞれキャラが立っています。

息子のスケタケを殺された竹子(月丘夢路)は釜を持ってスケキヨを○そうと押しかけるし、三女の梅子(小山明子)はマスク姿のスケキヨは替え玉じゃないのかと無遠慮に松子に言い放ちます。映画版ではおとなしく描かれていた竹子と梅子ですが、ドラマでは姉妹のあいだにある不仲、とくに長女の松子への不信をよくあらわしています。

スケタケ(成瀬正)もスケキヨを名乗る男の正体を、暴こうと殴りつけてでもマスクを剥ぎ取ろうとする粗暴ぶり。そのスケタケが死んだ途端に、珠世へなりふり構わぬアプローチをしかける小賢しいスケトモ(松橋登)。そんなスケトモに容赦なく平手打ちをくらわす恋人の小夜子(丘夏子)。

本物のスケキヨ以外の犬神家の一族が、いかに欲の皮が張った連中かよくわかるように、それぞれのキャラクターがハッキリと描かれています。

そして主要キャラではありませんが、金田一が宿泊する「那須ホテル」の女中キヨちゃん(井上聡子)を名サブキャラに推します。

キヨちゃんは金田一に甲斐甲斐しく世話をする気のいい田舎のお姉ちゃんですが、金田一事務所のおばちゃん(野村昭子)を耕助の恋人と勘違いしてヤキモチを炸裂するなど負けん気の強いところも見せます。また、「〜ずら」とか「〜だに」としゃべるところも、今なら「方言女子」として人気が出るかもしれません。映画版の坂口良子とは違った味のあるキャラクターです。

そして誰よりも圧倒的な存在感を見せつけたのは、犬神家の長女・松子を演じた京マチ子。個人的には「様」をつけたいほど、劇場版の高峰三枝子と優劣つけがたい双璧です。

とくに松子が青沼菊乃(吉本真由美)・静馬母子の写真に火をつけ、佐兵衛翁(岡田英次)の遺影に高々とかざしながら不敵に微笑む表情は超絶品! 今なら、これほどの怖さと美しさを表現できる女優はいないと断言できます。

 

そして映画版ともっとも異なるのは、青沼静馬がかぶるゴムマスク。能面を模したマスクは最初こそ違和感がありましたが、ポツンと小さく開いた両目の穴には瞳が見えず、漆黒の闇から見つめられているような不気味さを、かもし出しています。

映画で有名になったエイリアンのようなゴムマスクを使わず違うデザインにしたのは、「こっちはこっち」と、ドラマ版は別の作品であることを強調したかったのかも知れません。それでも、やっぱりスケキヨマスクだけは見慣れた映画版のほうがいいですね。