作品概要
「男はつらいよ 純情篇」は1971年1月15日に公開されたシリーズ6作目。シリーズ化が決定して最初の作品ということで、マドンナ役の若尾文子や森繁久彌などキャスティングも豪華です。
今作のテーマは「自分の居場所」。年がら年じゅう旅がらすの寅次郎にも「とらや」という帰れる巣があります。そんな寅次郎とは対照的に、今作では居場所のない女たちが登場します。
総合評価:★★★★☆
主なキャスト
- 寅次郎:渥美清
- さくら:倍賞千恵子
- 竜造:森川信
- つね:三崎千恵子
- 博:前田吟
- タコ社長:太宰久雄
- 絹代:宮本信子
- 絹代の父:森繁久彌
- 夕子:若尾文子
あらすじ
寅次郎は長崎港で赤ん坊を背負った女と知り合います。絹代というその女は宿賃がないと言うので同宿させることにしました。絹代はギャンブル好きの夫の元から実家へ帰る途中だと言い、宿賃の代わりにと服を脱ぎ始めます。それを見た寅次郎は、やさしく絹代をたしなめました。
翌日、故郷に帰りにくいと言う絹代のために寅次郎は五島列島の福江島まで付き添うことに。しかし、父親の千造は絹代を冷たく突き放します。
寅次郎が柴又に帰ると、「とらや」の二階は下宿として貸出中。下宿人の夕子もまた、売れない小説家の夫と別れようとしていました。
感想・考察
自分が快適に過ごせる場所、自分がそこにいてもいい場所があるってことは幸せなことです。もし、自分の居場所がどこにもなければ、どれだけ心細くてつらいでしょうね。
今作のテーマは「故郷」ですが、もう少し狭い意味の「自分の居場所」として描かれていたように感じます。
ここから「知ったか」です。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは人間の欲求を5段階に分けました。
もっとも基本的な欲求は食欲や睡眠欲などの「生理的な欲求」。その次が経済的な安定や良好な健康など「安全の欲求」。
それらが満たされると「所属の欲求」、つまり「自分の居場所」を求める気持ちが表れると言います。
「知ったか」終わり。
寅次郎も夕子も、落ち着いて休める自分の家がないところは同じ。でも、寅次郎には「とらや」ファミリーがいます。遠慮なくケンカできるタコ社長もいます。それが夕子にはうらやましく見えたんですね。
今作で印象的だったシーンは、絹代が宿賃の代わりにと服を脱ぎ始めたところ。そのとき寅次郎が言ったセリフが泣かせます。
俺の故郷にな、ちょうど、あんたと同じ年頃の妹がいるんだよ。もし、もしもだよ? その妹が行きずりの旅の男に、たかだか二千円ぐらいの宿賃でよ……。その男がもし、妹の体をなんとかしてぇなんて気持ちを起こしたとしたら、俺は、その男を殺すよ。五島とかいう、あんたの故郷で待ってるお父つぁんだって、俺とおんなじ気持ちだよ。それに決まってらあな!
妹さくらへの愛情が強く表れているセリフですねぇ。
『男はつらいよ』シリーズは寅次郎がマドンナに惚れては失恋するというパターンが繰り返されますが、じつは寅次郎がもっとも愛しているのは妹さくらだという「寅次郎シスコン説」があります。
それを裏付ける記述が、さくらを演じた倍賞千恵子さんの著書にありました。
別れの場面には、何か二人だけの特別の空気があったように感じます。兄妹でありながら、どこか恋人同士の別れ際のような、何かせつないものを感じながら演じていました。
山田監督がおっしゃっていました。
「兄妹はとてもきれいな感情でいつまでも愛しあえるという不思議な関係。だから、この映画は言ってみれば、寅さんとさくらの永遠のラブロマンスだったかもしれないね」『倍賞千恵子の現場』PHP新書
この危ない? 兄と妹の関係はシリーズをとおして続きますが、究極のプラトニックな愛が描かれているところも、『男はつらいよ』が今でも愛されている理由かもしれません。
また、絹代を演じた宮本信子といえば、2013年のNHK連続ドラマ『あまちゃん』を思い出す方も多いでしょうが、ボクは夫の伊丹十三が監督した『お葬式』『マルサの女』『ミンボーの女』などが好きでした。これらの作品については、いつか別のところでレビューしたいと思います。
森繁久彌が演じた絹代のガンコおやじは、ギャンブル好きの夫の元へ帰れと言いますが、今の時代では考えられないセリフですね。当時は一度嫁いだら、絶対に帰ってくるなという風潮だったんでしょうか? もし自分だったら娘をそんな男のところに帰そうとは、とても思えません。
一見すると薄情な頑固おやじも、娘が帰ってきた気持ちはわかる。でも、自分はいつまで娘を守ってやれるのか? そう考えると、自分の居場所は自分で作れと覚悟を決めさせるしかなかったんでしょうね。
森繁久彌は渥美清が敬愛する俳優だったそうです。今作での共演は渥美さんにとっても嬉しい機会だったと思います。
今作はけっこう見どころの多い作品となっていますが、そのうちの一つにタコ社長一家が勢揃いしている、とてもレアな場面が出てきます。そのシーンを見ると、どうやらタコ社長は二男二女を儲けているようです。33作「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」では美保純が演じる長女あけみだけが出ており、他の子たちの存在はなかったことにされたようです。
また、さくらが駅で寅次郎を見送るエンディングは、シリーズの中でも名場面と呼ばれるシーン。ここにも寅次郎とさくらの、兄妹を超えた特別な愛情が見事に表現されています。

