作品概要
「男はつらいよ 寅次郎の告白」は1991年12月21日公開のシリーズ44作。
家庭環境がハンデとなって、自分の可能性が奪われてしまった泉。対照的に平々凡々と暮らす満男は泉とつきあうことで少しずつ成長し、また、寅次郎の気持ちも理解できるようになっていきます。
今作は後半から終盤に向かって、じわじわと染みてくる展開となっています。
評価:★★★★☆
主なキャスト
- 車寅次郎(主人公):渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):下條正巳
- つね(叔母):三崎千恵子
- 博(さくらの夫):前田吟
- 満男(寅次郎の甥):吉岡秀隆
- タコ社長(隣りの印刷工場の経営者):太宰久雄
- 三平(くるまやの店員):北山雅康
- 題経寺の御前様:笠智衆
- 源ちゃん(寺男):佐藤蛾次郎
- 駄菓子屋の老婆:杉山とく子
- 聖子(女将):吉田日出子
- 礼子(泉の母):夏木マリ
- 泉(満男の恋人):後藤久美子
あらすじ
泉は就職活動のために上京するが、家庭環境や学歴が障壁となって不採用に。失意のまま名古屋に帰った泉は、無神経に婚約者を連れてくる母親と口論になり家を飛び出してしまう。泉からの絵ハガキを受け取った満男は「寂しさ」と書かれた文面が気になり鳥取へ向かう。そのころ、寅次郎もまた鳥取を訪れていた。
感想・考察
ときはバブル真っ盛り。満男の父・博が勤める朝日印刷も繁盛しているようで、タコ社長は珍しく人手不足だと嘆いています。
そんな好景気の中で泉は就職活動のために名古屋から上京しますが、家庭環境や高卒の学歴など不利な条件が重なり徒労に終わります。
両親の離婚や転校、進学の断念、母親の水商売は、どれも泉にとっては自分のせいじゃありません。親から一方的に与えられたハンデなのに、母親は再婚相手を自宅に連れてくる無神経さ。年頃の泉としては家出したくなるのもムリないでしょう。
そんな傷心旅行でしたが、自分を泊めてくれた親切な老婆や話を聞いてくれた寅次郎、自分を探しに来てくれた満男の優しさにふれて、泉は自分もそれほど不幸じゃないのかもと思い直します。
この頃になると「男はつらいよ」の実質的な主人公は吉岡秀隆が演じる満男ですが、平々凡々と育ってきた満男だけでは物語が膨らみません。そのため後藤久美子が演じる及川泉は、満男と対照的に苦労を強いられる存在として描かれているようです。
とくに今作は完全に泉が主役。つらいのは男だけじゃないわと言っているようです。
久々にモテたのに、やっぱり逃げ腰な寅次郎
鳥取で寅次郎は馴染みの店に満男と泉を連れて行きます。そこの女将はかつて寅次郎が一緒になろうと思ったほど愛した女性。
二人きりで飲み始めると女将はピンクの照明で雰囲気をつくり、ゆっくりと寅次郎に迫ります。ところが、その様子を覗こうとした満男が階段から落ちた騒ぎでぶち壊し。寅次郎は甥っ子に救われたかたちになりました。
惚れた女には積極的なくせに、いざ惚れられると逃げ腰になるのが寅次郎。
「伯父さんは手の届かない人には夢中になるけど、その人が伯父さんを好きになると逃げだすんだよ」
「どうして逃げ出すの?」
「きれいな花が咲いているとするだろ? その花をそっとしておきたい気持ちと、奪いとってしまいたい気持ちが男にはあるんだよ。伯父さんは、そっとしておきたい気持ちのほうが強いんじゃないかな」
寅次郎が惚れられるたびに逃げ出す理由は、このブログの「男はつらいよ 寅次郎夢枕(10作目)寅さんが女性の求愛から逃げる理由とは?」で考察しているので、ぜひ一読を。
渥美清が元気な「寅さん」でいられたのは今作まで?
渥美清が生前に演じた「男はつらいよ」は、今作から4年後に公開された48作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」まで。そして、元気な寅次郎を演じられたのは今作までのようです。
妹さくら役の倍賞千恵子や付き人の方が、次作の「男はつらいよ 寅次郎の青春」のころから渥美清の体調が目に見えて悪くなっていたと著書で触れています。
今作の寅次郎はまだヒョイヒョイと身軽に歩く様子が見られるので、この時点で渥美清の体調はそれほど悪くないように見えます。
しかし、久しぶりにタコ社長とケンカするシーンは二人ともすぐにフレームアウト。あとは怒鳴り声と物音だけが聞こえてくる苦しい演出。でもタコ社長もこのころは68歳ですから、取っ組み合いはムリでしょうね。
とは言え、古くからのレギュラー陣が老いていくほど、若い二人の初々しい恋が引き立ちます。今作は、泉を中心に終盤に向かってじわじわ染みてくるようないい作品でした。
本シリーズも残り6作。じっくりと観ていきましょう。

