作品概要
「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」は1975年8月2日公開のシリーズ15作目。
浅丘ルリ子演じる「さすらいの歌姫」リリーが「永遠のマドンナ」となる所以や、シリーズ屈指の名演と言われる「寅のアリア」「メロン騒動」など、見どころ豊富な作品となっています。
評価:★★★★★
主なキャスト
- 車寅次郎:渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):下條正巳
- つね(叔母):三崎千恵子
- タコ社長(隣の印刷会社の社長):太宰久雄
- 兵頭:船越英二
- リリー:浅丘ルリ子
あらすじ
寅次郎は兵藤という男と函館にいた。兵藤はサラリーマン生活に虚しさを感じて突発的に失踪。声をかけた寅次郎についてきてしまった。
屋台で2年ぶりにリリーと再会した寅次郎は三人で楽しく北海道を旅するが、兵藤が初恋の人と再会したことがきっかけで、女の幸せは男次第と言う寅次郎と、男に頼らないリリーは口論となり、小樽でケンカ別れ。
柴又に帰った寅次郎はリリーに酷いことを言ったと気に病んでいたが、そこへリリーが訪ねてきて、しばらく「とらや」に滞在することに。
数日後、アパートを借りて出ていこうとするリリーに「リリーさんが、お兄ちゃんの奥さんになってくれたら、どんなに素敵だろう」と、さくらが告げる。驚きながらも「私みたいな女で良かったら」と答えるリリーだったが……。
感想・考察
互いに好きあっているのに、どうも素直になれない二人。今作を契機に、リリーはシリーズにとって「永遠のマドンナ」とも言える別格の存在となります。しかし、さくらがせっかく代理プロポーズしてくれたのに、どうして二人は結ばれなかったのでしょう?
リリーは寅次郎に幸せにしてもらおうなんて思っていません。むしろ、さくらが見込んだとおり、リリーのほうが寅次郎をうまくコントロールできるでしょう。そこにまず、女の幸せは男次第と言う寅次郎とのすれ違いがあります。
自分ではリリーを幸せにできないと言う寅次郎に、涙ぐみながら「そうかしら?」と反論するさくら。ふだんは「な、さくら。そうだろう?」と言われると「そうね」と返すのがお約束のパターン。その時々によって「そうね」の細かいニュアンスが違うところもシリーズのプチ見どころですが、今回だけはさくらさん、寅次郎の「そうだろう?」に同意できません。
第10作の『寅次郎夢枕』でも寅次郎は幼なじみの千代に逆プロポーズされ、それを冗談話にしてしまった前科があります。惚れた女にはモーレツにアタックするのに、いざ相手からアタックされると逃げ腰になるディフェンス力の低さ。その理由は本ブログの「男はつらいよ 寅次郎夢枕(10作目)逆プロポーズに逃げる理由は?」に書いたので、そちらも一読をお願いします。
反対に、第7作の「男はつらいよ 奮闘篇」では、少し発達の遅れた花子に「おれが一生めんどう見るから、ずっとここにいろ!」と自らプロポーズ。寅次郎にとって花子は守るべき存在だったから、素直にプロポーズできたのでしょう。
また、今作は「寅のアリア」と呼ばれる寅次郎が「とらや」の人たちに語るシーンも見どころです。自分にカネがあれば大きな会場でリリーに歌わせてやりたいと思う寅次郎が、その様子をありありと語っています。その名演は、さくら役の倍賞千恵子さんも「聞いている私も、お芝居をしながら思わず熱いものがこみ上げてきました」と著書に書いているほどです。
ベルが鳴る。場内がスーッと暗くなるなぁ。「皆様、たいへん長らくをばお待たせいたしました。ただ今より、リリー松岡ショーの開幕ではあります!」。静かに緞帳が上がるよ。スポットライトがパーッと当たってね、そこへまっちろけなドレスを着たリリーがスッと立ってる。こりゃいい女だよ? あれはそれでなくたって、そりゃ様子がいいしさ。目だってパチーっとしてるから派手るんですよ、ね! 客席がザワザワザワザワザワっとしてさ、「きれいねえ」「いい女だなぁ」「あっ、リリー!」「待ってました」「日本一!」。やがてリリーの歌が始まる。♪ひーとーりー酒場で飲む酒はー。ねえ、客席はシーンと水を打ったようだよ。みんな聞き入ってるからなぁ。お客は泣いてますよ。リリーの歌は悲しいもんねぇ。やがて歌が終わる。花束、テープ、紙吹雪。ワァーっと割れるような拍手喝采だよ。あいつはきっと泣くな。あの大きな目に涙いっぱい溜まってよ。いくら気の強いあいつだって、きっと泣くよ……。
また、自分の分のメロンがないと怒る寅次郎を叱りつけるリリーのシーンも「メロン騒動」としてシリーズ屈指の名シーンと言われています。
まだ『男はつらいよ』シリーズを観たことがなく、どれから観始めようか迷っている方は、リリーが登場する11作目『寅次郎忘れな草』と今作の『寅次郎相合い傘』、そして25作目の『寅次郎ハイビスカスの花』から入ることをお勧めします。

