作品概要
「男はつらいよ 寅次郎子守唄」は1974年12月28日に公開されたシリーズ14作目。
美人看護師のマドンナに十朱幸代、他人の赤ん坊を育てる情に厚い女は春川ますみ。労働環境や捨て子などの社会問題を上質な笑いに包んだ心温まる人情劇となっています。
評価:★★★★★
主なキャスト
- 車寅次郎:渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):下條正巳
- つね(叔母):三崎千恵子
- タコ社長(隣の印刷会社の社長):太宰久雄
- 題経寺の御前様:笠智衆
- 源ちゃん(寺男):佐藤蛾次郎
- 赤ん坊の父親:月亭八方
- 踊り子の女:春川ますみ
- 大川弥太郎:上條恒彦
- 木谷京子:十朱幸代
あらすじ
ある日、博が印刷機械に危うく手を巻き込まれそうになった。事故の原因は博の不注意だが、タコ社長は経営者として責任を痛感する。
佐賀の呼子を訪れた寅次郎は、赤ん坊を背負って渡し船に乗る男を見かける。女房に赤ん坊を押しつけられた男だと、見送りの女が言う。その夜、寅次郎は子連れ男と宿で再会するが、翌朝、赤ん坊と置き手紙だけが残されていた。
寅次郎は赤ん坊を背負い、やっとの思いで「とらや」に帰り着く。子宝に恵まれなかった叔母のつねは自分が育てると張り切るが、赤ん坊の父親と見送りの女が赤ん坊を引き取りに来てしまった。
その頃、さくらは美人看護婦の京子からコーラスグループに誘われる。グループのリーダー弥太郎が京子に惚れていると知った寅次郎は告白しろとそそのかすが、実はライバルを自滅させようとする魂胆だった。ところが、京子と弥太郎は相思相愛で結ばれることに。
感想・考察
今作は労働問題と捨て子という、けっこうヘビーなテーマです。
博のケガにタコ社長は責任を痛感しますが、実際は経営者の多くが労災隠しに努めます。タコ社長が誠実な態度を見せたのは、こういう経営者ばかりであってほしいという山田洋次監督の願望かもしれません。
また、赤ん坊が隠し子じゃないかと疑う「とらや」の人たちに「ふつうだったら、とっくに放り出してるよ。俺はちゃんと抱いて帰ってきたじゃねえか!」と寅次郎が啖呵を切るシーンもありました。
この当時はコインロッカーに赤ん坊を捨てる「コインロッカーベイビー」が社会問題となっていたころです。自分で生んだ子どもすら放り出す親が多かったのですから、他人の子どもを放っておけなかった寅次郎の言い分には理があります。
今作では博の無事を祈って必死にお参りしたり、甲斐甲斐しく赤ん坊の世話をするつねおばちゃんの姿も印象的でした。
連れ合いの竜造は松村達雄から下條正巳に代わり、以降48作まで3代目おいちゃんを務めています。
ゲストには春川ますみが3作目の『男はつらいよ フーテンの寅』以来2度目の登場です。今作では赤ん坊を引き取るス●リップの踊り子役ですが、春川ますみ自身が踊り子から女優に転身した経歴の持ち主。呼子の渡し船乗り場で寅次郎と交わす会話にも味がありました。
女:「こんな景色のよかとこへきて、暗かところで女の●見て、どこがよかつかねえ」
寅次郎「姐さんの芸を見にきたと思えば、腹も立たねえだろう」
捨てられた子どもを我が子として育てようとする母性豊かな女性像を、つね役の三崎千恵子と踊り子役の春川ますみが好演しています。
労働問題や捨て子をテーマとした今作は、大笑いする場面が少なく地味な印象かもしれません。しかし、暗くなりがちなテーマを暖かい人情で包んだ秀作だと思います。
今作のマドンナは京子役の十朱幸代ですが、個人的に春川ますみが出ているだけでも満足です。

