作品概要
映画『蒲田行進曲』は、つかこうへいの小説を原作とした1982年制作の作品。制作は角川映画、撮影は東映、上映が松竹という、諸般の事情が絡み合った背景がうかがえます。
理不尽なパワハラがあたりまえだった昭和の映画界を風刺するようなドタバタのコメディー劇ですが、舞台劇のような演出が喜劇として非現実的なストーリーを成立させています。
また松坂慶子・風間杜夫・平田満が歌った主題歌や、中村雅俊の挿入歌『恋人も濡れる街角』も当時は頻繁にテレビの歌番組で見聞きした覚えがあります。
主なキャスト
- 銀四郎(スター俳優):風間杜夫
- ヤス(大部屋俳優):平田満
- ヤスの母:清川虹子
- 朋子(銀四郎の新しい彼女):高見知佳
- 小春(銀四郎に捨てられヤスと結婚する女優):松坂慶子
感想・レビュー
とても今の時代じゃ作れない作品ですね。大部屋俳優たちに対する銀ちゃんの態度は暴君そのもの。しかも自分の保身のために、身ごもった恋人の小春をヤスに押しつけてしまうところも、今なら女性の人権がーと騒ぐ人たちが出てきそうです。
東映の京都撮影所といえば時代劇の撮影所として有名ですが、昭和の初期は松竹系の「帝国キネマ太秦撮影所」という名称だったようです。だから主題曲もこれだったんですね。当時は毎日のようにテレビCMで流れていたので、映画は観たことがなくても曲には聞き覚えのある人が多いんじゃないでしょうか。
しかし、京都撮影所は撮影技師たちが新人や新参の役者をいびるところとしても有名。やがて大御所となる俳優たちも、最初はいじめられて苦労していたそうです。
今作はドタバタかつスピーディーなコメディー映画ですが、昭和の映画界という閉鎖的で理不尽がまかり通っていた世界を自虐的に描いた作品なのかもしれません。
それでも『蒲田行進曲』が今でもおもしろいのは、まだ30前後だった風間杜夫や平田満の勢いのある演技。そしてなによりも妖艶な女優から世話女房まで、一人の女性が変わりゆく姿を見事に演じた松坂慶子の名演があればこそ。彼女が演じた小春は、とても母性本能の強い女性として描かれています。だから銀ちゃんやヤスのようなダメな男に弱いんでしょうね。
ちなみに松坂慶子は今作の1年前、『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』にマドンナ役として出演。寅次郎に切ない恋をする大阪の芸者を好演しました。こちらも美しい盛りの松坂慶子を堪能できる名作です。
今作は、デタラメな行為も大目に見られた昭和の時代を少々大げさに描いています。そんなバカバカしさの象徴が、将棋の駒を並べたデザインのキャデラック。銀ちゃんは無免許ですが、「キャデラックに免許がいるか!」と清々しいまでの暴言。こんなセリフも今のようなコンプライアンスがうるさい時代はNGでしょうね。
パワハラあり、DVあり、無免許運転ありなど、今の時代では作れない内容ですが、だからこそ今でもおもしろおかしく観ることができるのかもしれません。あまりきれいごとを言うほど、世の中は息苦しくなっていくんだなと痛感します。
そして、ラストは「え、まさかそうくる?」という演出ですが、これには賛否両論ありそうです。

