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映画『時代屋の女房』感想・考察(ネタバレあり)

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作品概要

映画『時代屋の女房』は村松友視(ともみ)の小説を原作として1983年3月19日に公開。監督は1970年の『男はつらいよ フーテンの寅』を手がけた森崎東。

渡瀬恒彦が骨董屋「時代屋」のちょっと朴とつな主人を、夏目雅子が気まぐれなネコのように謎めいた女性を演じています。また、大坂志郎や津川雅彦らが演じる周囲の人たちの、ありふれたようでそうでもない日常が昭和的な光景をノスタルジックに描いています。

主なキャスト

  • 安:渡瀬恒彦
  • 真弓、みさと:夏目雅子(二役)
  • トン吉のおかみ:藤田弓子
  • トン吉の主人:藤木悠
  • クリーニング店の今井:大坂志郎
  • 今井の奥さん:初井言榮
  • 喫茶店「サンライズ」のマスター:津川雅彦

あらすじ

東京大井町駅の近くにある骨董品「時代屋」に、白いワンピースを着た若い女・真弓が訪れる。真弓は公園で拾ったネコを店主の安に引き取ってくれと言い、自分もそのまま居ついてしまう。

半年後、真弓は「ちょっと出てきます」とメッセージを残して姿を消しては、数日経つとまたふらりと戻ってくることを繰り返すようになった。安はそんな気まぐれな真弓のことを、本気で愛し始めている自分に気づく。

あの頃、確かにあった時代がここに描かれている

観終えたときには、「う~ん」という感想しか思い浮かばなかった、というのが正直なところでした。物語としてメリハリの効いた流れがあるわけじゃないし、これはただ、夏目雅子を鑑賞するだけの作品じゃないかと、そんなふうに思ったのが本心です。

最初はそれでもいいかと思いました。なにしろ、この2年後に27歳の若さで亡くなってしまった彼女の美しい姿を観られるだけでも価値はあると思ったからです。

しかし、どうもそれだけではない何かが心に残っていました。とくにおもしろくもない映画の、なにが自分の中に残ってしまったのか? それを、もう少し考えてみました。

そして出た結論が、昭和へのノスタルジーでした。

本作が公開されたのは1983年ですから、当時はノスタルジー路線を狙った作風じゃなかったでしょうが、40年経った今になって観ると、そこに描かれている光景は、かつてこの国のあちこちにあった日常が陽炎のように描かれているように思えます。

町内にはクリーニング店や喫茶店やこぢんまりした居酒屋があり、そんな狭いコミュニティーの中で住民たちが近所づきあいをしている。かつては「あたりまえ」にあった光景がふつうに描かれていることに対するノスタルジーでした。

「サンライズ」のような個人経営の喫茶店が町のあちこちにあり、フラッと気軽に立ち寄れる居酒屋があった時代を、ぼくは覚えています。当時はそれがあたりまえという意識すらありませんでした。

しかし40年経った今は、あのころにあった「あたりまえ」がほとんどなくなっていました。「喫茶店」と言われる店もフラリと立ち寄れる小料理屋も少なくなりました。

その代わり、コーヒーが飲みたければスターバックスのような「カフェ」があり、コンビニでもレギュラーコーヒーが買えるようになりました。小料理屋はなくなっても牛丼屋やコンビニがあれば食事に困ることはありません。その代わりに、人と人とのコミュニケーションは無くなりました。

今作が公開されたのは今からもう40年も昔のことですから、あのころ最新の人気商品だったものも、今じゃ「時代屋」に置かれるような骨董品になってしまったのかもしれません。なにしろラジカセやウォークマンが高値で取引されるようになっていますから。

クリーニング店のおかみさん(初井言榮)が、まるで寅さんが持っていたような古いトランクを「時代屋」に売り払うと、中には使われなかった汽車の切符が残されていました。すると夫の今井(大坂志郎)が慌ててトランクを買い戻しに来ます。

そのトランクは、若いころに今井が駆け落ちしようとしたときに持っていたもの。かつて愛した人妻との思い出が詰まったトランクですが、久しぶりに故郷へ帰った今井を待っていたのは、杖をついた老婆の姿でした。

これも「あるある」ですよね。若いころに好きだった女性に歳をとってから会うと、昔のイメージがぶち壊されて幻滅。「会わなきゃよかった」と後悔するのがオチです。そうした理由で同窓会を敬遠している人も多いんじゃないでしょうか?

ぼくも若いころに好きだった年上のお姉さんがいますが、これから会わせてやると言われても絶対に会いたくありません。きれいな思い出にとって、現実は最大の敵です。

津川雅彦が演じる喫茶「サンライズ」のマスターも経営難で店を畳み、知人を頼って旅立ちます。個人経営の店が大手資本に圧し潰されて、どんどん町から姿を消しはじめたころでした。

そうした時代の流れの中では、意外と「時代屋」のような時の流れとは無縁の商売のほうが、しぶとく生き続けられるのかもしれません。むしろ今なら遺品整理で流れてきた品物で仕入れには不自由しないでしょうしね。

カセットテープやラジカセが若い人たちにも人気のアイテムになるような時代がくるとは、デジタル化まっしぐらの時代を経験した身には予想もつきませんでした。今は新しくても、いずれは古い骨董品になって価値がよみがえるものなんですね。古くなって価値がなくなるのは人間だけかもしれません。

そして、この作品が昭和ノスタルジーを掻き立ててくれるのは、ちあきなおみが歌う主題歌の「Again」。これぞ「The 歌謡曲」といった曲ですが、『時代屋の女房』はこの曲とセットで完成していると言えるほどマッチングしています。

今作に出演した多くの人たちが鬼籍に入られましたが、それだけに彼ら・彼女らが残してくれた「あの頃」をただ懐かしく観るだけでも今作の意義はあると思います。合掌!

 

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