作品概要
「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」は1976年7月24日に公開されたシリーズ17作目。太地喜和子が芸者ぼたんを好演し、寅次郎と息の合ったマドンナを演じています。
共演は宇野重吉と長男の寺尾聡や佐野浅夫の他に、第7作『男はつらいよ 奮闘篇』でマドンナ花子を演じた榊原るみがカメオ出演しているシーンも。
今作は同年の「キネマ旬報ベストテン」で日本映画部門2位を獲得した秀作としても高い評価を得ています。
評価:★★★★★
主なキャスト
- 車寅次郎(主人公):渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):下條正巳
- つね(叔母):三崎千恵子
- 博(さくらの夫):前田吟
- タコ社長(隣の印刷工場の経営者):太宰久雄
- 鬼頭(詐欺師):佐野浅夫
- 池ノ内青観(日本画の大家):宇野重吉
- ぼたん(芸者):太地喜和子
あらすじ
寅次郎は飲み屋から無銭飲食の老人を連れ帰る。哀れな老人だと思っていると、飯だ風呂だと横柄な態度に怒り心頭の「とらや」の人たち。ところが老人は有名な日本画の大家、池ノ内青観だった。
兵庫県龍野市を旅する寅次郎は、そこで青観と再会する。青観と親し気な態度を勝手に勘違いした市役所の人たちは寅次郎を連日の宴席で接待。その席できっぷがいい、ぼたんという芸者と親しくなった。
柴又に帰った寅次郎を、ぼたんが訪ねてきた。ぼたんは200万円を預けた詐欺師の鬼頭からカネを取り返すために上京したが、法の盲点を利用した悪党に打つ手がない。それを聞いた寅次郎は一計を案じるが……。
感想・考察
今作は詐欺という犯罪がテーマですが、そこはもちろん「寅さん映画」ですからシリアスになることはなく、ぼたんを救うためひたむきに行動する寅次郎の男気に感動します。
芸者ぼたんが詐欺師の鬼頭に直談判するためにタコ社長が付き添いますが、年じゅう金策に苦労しているだけの社長が役に立つはずもありません。ふつうはまず弁護士に相談するのがセオリーでしょうが、コメディー映画にそれを言っちゃあおしまいですね。
詐欺という犯罪はいつの世にもあります。近ごろなら「振り込め詐欺」や「アダルトサイト詐欺」なんかが定番ですが、そこまでハッキリした詐欺でなくても、世の中には他人の財布からカネを取ろうと躍起になっている詐欺師まがいの「カタギ」も多くなりました。
佐野浅夫が演じる鬼頭は「ハッキリした悪党」ですが、はたして鬼頭のような奴だけが悪党でしょうか?
従業員に残業代を払わなかったり労災隠しをする経営者、税金を取ることしか考えない財務省官僚とその傀儡(くぐつ)の政治家たちは詐欺師よりもずっと性質が悪いと言えます。
また、偏向・捏造報道を繰り返すマスコミや犯罪を自作自演する警察等々、数え上げたらキリがないほど有象無象の悪党どもがのさばっています。しかも、そうした悪党どもの多くは(とくに末端の小悪党ほど)、自分のやっていることが悪とは思っていません。
ぼたんは両親がすでに他界し、弟と妹を養うために芸者になったと言っています。200万円もの大金を鬼頭に預けたのは、弟と妹のためにカネを増やしたいと思ったからでしょう。しかし、世の中にウマイ話はありません。
「小説版 バビロン大富豪の教え」ジョージ・S・クレイソン(文響社)という本に、こう書いてあります。
健全なる投資の第一の鉄則は、元本を確保することです。(中略)財を差し出す前に、元本を安全に回収できる確証があるかどうかを、慎重に検討してください。
ぼたんには、ぜひこの本を読んでもらいたかったですね。
同書には『「お金」と「幸せ」を生み出す五つの黄金法則』も書かれています。せっかくなので紹介しましょう。
- 収入の1/10を蓄えろ
- カネに働かせろ
- 投資のプロのアドバイスには耳を傾けろ
- 自分が理解していない、またはプロが勧めない投資に手を出すな
- 非現実的な利益を求めたり、甘い言葉にのったり、自分の経験を盲信するな
他人が持ちかけてくるウマイ話っていうのは、たいてい4と5ですね。
これを書いている時点で日本は岸田文雄内閣ですが、岸田総理は国民の貯蓄を投資にまわすことで経済を活性化させると言います。しかし、投資リテラシーの低い日本人にとって、急に投資しろと言われたってねえ。
それこそ、自分が理解していない投資に手を出してしまえば結果は明らか。かと言って、給料は増えず金利も低い時代ですから、貯蓄で財を築くのはむずかしい。
本作が公開された2年前の1974年には、郵便貯金(3年定期以上)の金利は8%もありました。つまり、100万円預けておけば、1年で108万円、2年で116万円、3年で126万円と、目に見えておカネが増えました。しかし今は家に置いておくより安全というだけです。
この時代は投資の知識なんてなくても、誰でも安全にカネを増やすことができました。それは何故か? 答えは日本の景気が良かったから。
政治家の仕事は、日本の景気をよくしてカネを回すこと。なのに貯蓄から投資へと言うのは無責任なだけじゃなく、政治家としての無能ぶりを開き直ってます。
日本でも高校で金融教育が始まり金利や金融商品についても触れるようですが、それが実際の投資活動にどれだけ有効なのか。政治家は投資を勧めるより景気の回復に努めるべきでしょう。国民に投資リテラシーを身につけろと言う前に、お前らがちったぁ経済学を勉強しろと言いたくなります。
と、このての話を始めるとキリがないので、このあたりで止めておきましょう。
太地喜和子が演じる芸者ぼたんはカラッと陽気で、お互いに「所帯を持とう」なんて軽口をたたきあうほど寅次郎との相性がいい。しかも、辛いときこそ笑って過ごす芯の強さもあるので、もしかするとリリーと並ぶ「永遠のマドンナ」になれたかもしれません。せっかく今作の寅次郎はマドンナにふられることなく終わっているので、せめて、もう一作くらい同じ役で観たかったと思います。
残念ながら太地喜和子は1992年に48歳で亡くなりましたが、酒豪で知られていた彼女だけに芸者の役もよく似合っています。ちなみに寅さんファミリーとの縁もあったようで、Wikipediaによると、前田吟とは俳優座の同期、秋野太作とは短いあいだですが夫婦だったことがあるそうです。
また、詐欺師の鬼頭を演じた佐野浅夫は後に三代目「水戸黄門」を演じることになります。初代は第2作「続・男はつらいよ」で坪内散歩先生を演じた東野英治郎ですから、この時点で黄門様が二人も出演したことになりますね。そして21作目「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく」でも黄門様が……と、これは先走りすぎですね。
市役所の職員を演じた寺尾聰は、池ノ内青観を演じた宇野重吉の長男。まだ役者としては力不足だったのかろくにセリフもありませんが、のちの43作『男はつらいよ 寅次郎の休日』では満男のマドンナ及川泉の父親役としていい味を出しています。
今作は長い歴史のある「第50回 キネマ旬報ベストテン」で日本映画部門2位になっています。ちなみに1位は長谷川和彦監督、水谷豊主演の『青春の殺人者』、5位には市川崑監督、石坂浩二主演の『犬神家の一族』がランクインしています。
今作は、とにかくマドンナぼたんを観ているだけでも満足できる作品。亡き太地喜和子の艶やかさに惚れてしまいそうな名演を堪能してください。

