作品概要
シリーズ2作目となる『続・男はつらいよ』は1969年11月15日の公開。1作目の好評をうけて急きょ続編が決定したため、前回からわずか3か月後に公開されています。
そのためストーリーは坪内親子や実母との再会などドラマ版の設定をベースとした内容としていますが、ほんとうの意味で人の心に寄り添うとはどんなことかを教えてくれるハートフルな物語になっています。
評価:★★★★★
主なキャスト
- 車寅次郎:渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):森川信
- つね(叔母):三崎千恵子
- お菊:ミヤコ蝶々
- 坪内散歩:東野英治郎
- 坪内夏子:佐藤オリエ
あらすじ
まだ見ぬ母の面影を夢に見る寅次郎。捨て子として育てられた寅次郎は京都に実母がいると聞いて会いに行くものの、40年ぶりの再会はケンカ別れに終わってしまう。
傷ついた寅次郎を慰めてくれるのは、高校時代の恩師である坪内散歩先生と娘の夏子。散歩先生と寅次郎は仲のいい父子のように旧交を深めるが、散歩先生はある日……。
感想・考察
なんか最近、やたら「寄り添う」って言葉を聞きませんか? もはやギャグで言ってんのかと言いたくなるほど、軽~いノリで使い倒されていますよね。
2011年の東日本大震災のときもやたら「絆、絆!」って言われてたけど、ほんとはそんなことサラサラ思ってないんでしょう。
「寄り添う」も「絆」も、そのときだけいい人になれるお手軽な免罪符として言ってんだろとか思ってしまいます。
本作では坪内散歩先生と娘の夏子が、ほんとうによく寅次郎に寄り添ってます。
もちろん作中に「今どきニュアンス」の寄り添うなんて薄っぺらい言葉は出てきませんが、この二人の寅次郎に対する親身な態度こそがほんとうの意味で人の心に「寄り添う」ってことなんだなぁと思わされます。
散歩先生は寅次郎を自宅に招いては一緒に酒を酌み交わしますが、あるとき、こんなことを言います。
俺が我慢ならんことは、お前なんかより少しばかり頭がいいばっかりに、お前より何倍も悪いことをしている奴がウジャウジャいることだ。こいつは許せん。実に許せんバカもんどもだ!
両手をワナワナさせながら義憤に震える散歩先生ですが、今作が公開された年の8月から散歩先生を演じた東野英治郎が主演の『水戸黄門』が始まっているので、このセリフはあきらかに黄門様を意識したパロディーですね。
また、今作では寅次郎の母キクを演じるミヤコ蝶々の名演技も見どころ。
一人息子が思いがけず40年ぶりに会いに来てくれた嬉しさの刹那、我が子を捨てた引け目から思わず悪態をついてしまう悲喜こもごもが一瞬のうちに移り変わる表情に目を惹かれます。
ミヤコ蝶々は第7作『男はつらいよ 奮闘篇』でもう一度登場しますが、残念ながら全50作中での出演はこの2作だけ。山田洋次監督がミヤコ蝶々を活かしきれなかったんでしょうか?
寅次郎に負けず劣らず強烈なキャラのキクには、もう少し登場してほしかったと思います。
坪内冬子と坪内夏子 親戚なの? 違うの?
前作と今作を観て「?」と思ったのは、散歩先生親子の「坪内」という名字でした。
割と最近になってから見始めたニワカなので、1作目「男はつらいよ」で題経寺の御前様と娘が坪内性だったこと、マドンナの名前も1作目が坪内冬子、今作が坪内夏子なので、このあたりが謎でした。
『男はつらいよ』の関連本を読み漁るうちにわかったんですが、ドラマ版では寅次郎のマドンナは散歩先生の娘の冬子だけ。毎回新しいマドンナが登場するパターンは映画版になってからのようです。
そしてドラマ版で坪内冬子を演じたのが今作で夏子役の佐藤オリエ。冬子という名前は1作目で御前様の娘に使ってしまったため、今作では夏子になったようです。
実に安易な変更ですが、昭和ならこれくらいはあたりまえ。
ちなみに、今作での寅次郎は葛飾商業退学となっていますが、後の作品では中学も卒業していない設定もあるなど、けっこうアバウトなところがあります。
各者各様の「バカ」
今作では複数の登場人物が寅次郎に「バカ」と言っていますが、これらを比較してみると、それぞれの心情の違いが見られるのもおもしろいところです。
まず最初は1年ぶりに寅次郎が帰ってきたときに妹さくらが言った「バカよ、お兄ちゃんは。何してたのよ。わたしたちがこんなに心配しているのに」というセリフ。
前作で20年ぶりに再会した兄と妹でしたが、寅次郎は冬子に失恋して再び旅立ったまま。それから1年、電話ひとつ寄こさない兄を心配し続けたさくらの「バカ」には、母親のような愛情が感じられます。
次は「俺ぁ英語、全然ダメだよ」と言った寅次郎に、「バカだなぁ、おまえは。これは漢詩だ」と言った散歩先生。
酒を飲みながら、しきりに「おまえはバカだなぁ」と言いますが、その「バカ」にはダメな教え子ほどかわいいという愛情が感じられます。・
そんな親身な散歩先生にすっかり迷惑をかけた寅次郎が、「俺ぁ、どうしてこうバカなのかねぇ、先生」と詫びたときのセリフ。自分の情けなさを恥じた痛恨の「バカ」でした。
そして最後に寅次郎を「バカ」と言うのは、やっぱり竜造おいちゃんです。
母親との辛い再会のあとは腫れ物を触るように気づかっていたのに、夏子の家から上機嫌で帰ってくる寅次郎を見ての呆れ果てた「バッカ……」。
ほんとうは「とらや」を継いでほしいと思っているのに、それも期待できそうにない甥っ子に対するもどかしさや苛立ちが込められた「バカ」なのかもしれません。
本作は急ごしらえで作られた作品ですが、ホロっとさせる人情と、はじけたギャグがうまくミックスされていて、ボクとしては『男はつらいよ』全50作の中でも、とくにお気に入りの作品です。


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