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男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(21作)不況のときこそ楽しみたい傑作

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男はつらいよ
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作品概要

「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく」は1978年8月5日に公開されたシリーズ21作目。さくら役の倍賞千恵子が所属していた松竹歌劇団(SKD)とコラボレーションした異色作。

恋と踊りのどちらをとるか悩むマドンナに木の実ナナ、寅次郎を師と仰ぐモテない青年に武田鉄矢を迎え、スピーディーで見ごたえのある良質な娯楽作品となっています。

評価:★★★★★

主なキャスト

  • 車寅次郎(主人公):渥美清
  • さくら(妹):倍賞千恵子
  • 竜造(叔父):下條正巳
  • つね(叔母):三崎千恵子
  • 博(さくらの夫):前田吟
  • タコ社長(隣りの印刷工場の経営者):太宰久雄
  • 照明係の隆:竜雷太
  • 留吉の母:杉山とく子
  • 留吉:武田鉄矢
  • 紅奈々子:木の実ナナ

あらすじ

不景気の波は「とらや」と朝日印刷をも直撃。そんな折に帰ってきた寅次郎は、バカバカしい「とらや再建計画」を朗々と披露し、家族はすっかり呆れ顔。気を悪くした寅次郎はタコ社長とケンカになり、また出ていってしまった。

商売で九州に来た寅次郎は、女にフラれてばかりの留吉という男と知りあう。「フラれたときは、黙って去っていくのが男だ」と諭す寅次郎に留吉は感激し、別人のように働き者になる。

九州の村人たちからは「先生」と呼ばれて人格者ぶっている寅次郎だが、実は宿賃を持ち合わせていない。迎えに来たさくらに厳しく叱られ、柴又に帰ってからは心を入れ替えたかのように「とらや」の仕事を手伝い始める。

しかし、さくらの幼なじみで松竹歌劇団(SKD)のスター奈々子に一目ぼれし、それまでの真面目さも元の木阿弥。上京してきた留吉まで奈々子の後輩しのぶに熱を上げ、東京に居ついてしまう。

感想・考察

作中では不景気を表すキーワードが何度も出てきますが、当時はそれほどヒドイ不況だったんでしょうか?

今作が公開された1978年の為替相場は1ドル=180円前後。1971年までは1ドル=360円の固定相場制だったので、2倍の円高になったわけです。つまり、1000円出さないと買えなかったアメリカ製品が500円で買えるようになったわけですね。

今なら、iPhoneとかハーレーとか安くなっていいんじゃね? と思いますけど、そう単純な話じゃありません。

「円高」ってことは、日本はアメリカのモノを安く買えるけど、アメリカは日本のモノが高くて買えません。

お得意さんのアメリカが「Oh! ニホンノモノ タカクテ カエマセ~ン」となると、輸出で稼ぐ企業にとっては死活問題です。

当時の日本は自動車や家電製品など輸出産業が中心でしたから、そこが不景気になると悪影響は中小企業にも及んでしまいます。とくに自動車や家電はすそ野が広い産業ですから、日本経済全体に対するダメージが大きかったということです。

しかし、この年はインベーダーゲームの大ヒット、ディスコブーム、マツダ サバンナ RX-7の発売などがありましたし、GDP(国内総生産)は前年比5.4%とまずまず、完全失業率も2.2%とまだ低い水準です。ちなみにキャンディーズが「ふつうの女の子に戻りたい」と言って解散したのもこの年でしたが、やっぱり「ふつうの女の子」には戻れませんでした。

ですから、まだそれなりに景気のいい時代だったというのが、当時まだ中坊だったボクの印象です。だいたい、ほんとうに不景気なら庶民がレビューなんて観に行くかって。

時代考証はこのくらいにして、ストーリー的に考察してみましょう。

まず今作は松竹歌劇団(SKD)とのコラボレーション企画となっています。SKDは宝塚歌劇団と人気を二分したレビュー劇団ですが、1996年を最後に解団しています。

劇中では「東京踊り」とか「夏の踊り」という言葉があたりまえのように出てきますが、SKDは年に4回の大規模なレビューを開いていたようで、今作の中ではこの2つが催されたことになります。

SKD出身の有名な女優と言えば1987年の「男はつらいよ 知床慕情」、1989年の「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」に出演した淡路恵子、そして今でも元気に現役で女優をされている草笛光子、意外なところでは「サザエさん」の加藤みどり、そして、さくらを演じる倍賞千恵子もSKDの出身です。

そのため、倍賞千恵子にとって今作はとくに印象深い作品になったようで、「客席に座ってステージを見ているシーンの撮影は、涙が出るほど嬉しかったですね」と「Astage」のインタビューで語っています。

ボクが注目したのは、「鬼のさくら」と「愛のさくら」の使い分け。荒唐無稽な「とらや再建計画」でみんなを呆れさせたときや九州に迎えに行ったときなどは、叱りつけたり無視したりと母親のように厳しい態度ですが、奈々子に失恋して旅に出る寅次郎の気持ちを一番わかっていたのもさくらでした。

今作では、倍賞千恵子って細かい表情の演技がウマイなぁと感心しました。渥美清が大きな芝居で喜劇を演じる横で、ちょっとした表情やしぐさなど細かい芝居で味を整えます。とくに今作は木の実ナナや武田鉄矢と大きな芝居をする人たちが多いので、対照的に細かい芝居で魅せる倍賞千恵子の力量が存分に感じられる作品です。

今作では、またタコ社長が寅次郎に縁談を持ってきます。

九州から帰ってきた寅次郎が心を入れ替えて「とらや」を手伝い始めていると、タコ社長が見合い話をもってきます。しかし、タコ社長が持ってくる縁談にロクな話がないのは3作目「男はつらいよ フーテンの寅」で証明済み。

相手は朝日印刷の取引先「吉田活版」に勤める「よっちゃん」という女性らしいのですが、いくら「もちろん、18、19の乙女ってわけじゃないよ?」と言っても、限度ってもんがあるでしょと言いたくなる熟女。

さらに博まで「あの人なら、きっと兄さんも気にいるんじゃないかなぁ」なんてクールに無責任なことを言い放ちます。きっとこの二人、心の中では日ごろの恨みつらみが溜まってるんじゃないでしょうか。

本シリーズで寅次郎の恋が実ることは絶対にありえませんが、いつ見ても寅次郎が好きな女性から去っていくシーンは胸を打ちます。

恋愛よりも踊りをとった奈々子は、寅次郎に飲み明かそうと誘います。しかし、マンションの窓から恋人の姿を見つけ外へ飛び出していきます。雷鳴が響きどしゃ降りの雨の中で抱き合う様子を見る寅次郎の辛さはハンパじゃありません。こんなドラマチックな場面を見せられて失恋したら、ふつうの男は3日くらい寝込みたくなります。

「フラれたときは、黙って去っていくのが男だ」と留吉に言った寅次郎は、自分もまた奈々子には何も言わず姿を消します。そして旅に出る間際、さくらにこう言います。

「あのこが幸せになりゃ、それでいいんだ。ただ、踊りをやめたりしたら後悔するんじゃねえかな。オレだったら、そんなことさせねえ」

う~ん、渋いセリフですねぇ。

「夏の踊り」の初日、さくらより少し後ろの席で、一人ステージの奈々子を見つめる寅次郎。最後までキッチリ愛しぬくのが「フーテンの寅」の男気です。

今作を盛り上げたゲスト俳優たち

今作でマドンナを務めた木の実ナナ。ほんとうにSKDのスターだと言っても違和感がないほどステージ映えする女優です。

ボクにとって木の実ナナと言えば、1982年に五木ひろしとのデュエットでヒットした「居酒屋」が印象深い曲です。当時、運転免許を取りにいっていたとき、送迎用バスのラジオからいつも流れていた曲でした。当時はなんとも思わなかったんですが、オッサンになってから急に聴きたくなり、それ以来、毎年年末になると「居酒屋」を聴いています。

また、1982-2007年までテレビ朝日「土曜ワイド劇場」で放送されていた「混浴露天風呂連続殺人」も好きなドラマでした。古谷一行が演じる左近太郎警部と、木の実ナナが演じる山口かおり警部補。

毎回、若い裸の女性たちと露店風呂に浸かりながら事件を解決するというバカバカしい話でしたが、土曜の夜にビールを飲みながら観るにはピッタリな、ある種の癒し系ドラマでした。

そしてもう一人、今作で大活躍したのが武田鉄矢。

役者としての武田鉄矢は前年の1977年に山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」でデビューしたばかりですが、唯一無二の存在感はこれ以降の活躍が容易に想像できるようです。

女にフラれたばかりの留吉がチェーンに足を引っかけて転ぶシーンがありますが、これは「幸福の黄色いハンカチ」のパロディーでしょう。留吉が寅次郎とさくらをクルマに乗せて走るシーンも「幸福の黄色いハンカチ」を連想します。

また1978年と言えば、東洋水産から「マルちゃん 赤いきつねと緑のたぬき」が発売された年。もちろんCMキャラクターは武田鉄矢。

そして武田鉄矢は「男はつらいよ」から出た3人目の水戸黄門でもあります。2作目で散歩先生を演じた東野英治郎、17作目で詐欺師の鬼頭を演じた佐野浅夫に次いで、2017年にBS-TBSで水戸黄門を演じています。

留吉の母を演じるのは杉山とく子。ドラマ版「男はつらいよ」では叔母のつねを演じ、映画版でも5作目「男はつらいよ 望郷篇」や、前作「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」など、本シリーズのいくつかに出演しています。いかにも、どこにでもいそうな昭和のおばちゃん役が似合う女優さんです。

そして奈々子の恋人、照明係の隆を演じるのは竜雷太。ボクにとって当時の竜雷太は「太陽にほえろ」のゴリさんのイメージしかなかったんで、他の役を演じている竜雷太が新鮮に見えます。

余談ですが、今作と同時上映だったのは勝野洋が主演した「俺は田舎のプレスリー」。奇しくも「太陽にほえろ」の刑事役が二人揃っていますね。

今後に期待ができる秀作(←えらそう)

正直言って前作の「寅次郎頑張れ!」は、「お前が頑張れ!」と山田洋次監督に言いたくなるほど凡庸な作品でしたが、今作は打って変わって楽しめる作品になっています。

木の実ナナ、武田鉄矢、倍賞千恵子、渥美清の4人を中心に、タコ社長の太宰久雄や寺男の佐藤蛾次郎なども奮闘して、まったく退屈さを感じさせません。

中でも、やっぱり武田鉄矢の存在は大きいですね。渥美清が一人で引っ張るだけでなく、武田鉄矢もリズムよくノリを重ねている様子は、腕のいいミュージシャンが集まってジャムセッションを繰り広げているようにも感じます。

以前は舎弟の登が寅次郎と息の合ったコンビネーションを見せていましたが、登を演じた津坂 匡章(秋野太作)が本シリーズを降板してからの寅次郎は孤軍奮闘。そんな努力の甲斐もなく物足りなさを感じる作品も多かっただけに、武田鉄矢との共演は久しぶりにノリにのった寅次郎が見られます。

今作は、不景気な世の中だからこそ映画の世界くらいはパッと明るくいきたい! そんなスタッフや出演者の気持ちが溢れているような楽しい作品となっています。当時より不景気な今だからこそ、あらためて楽しんではいかがでしょうか。