作品概要
「男はつらいよ ぼくの伯父さん」は1989年12月27日公開のシリーズ42作。
吉岡秀隆の演じる寅次郎の甥っこ満男が実質的な主人公に。そして、当時「国民的美少女」と言われた後藤久美子が満男のマドンナ及川泉を好演。寅次郎は初恋に悩む満男の手ほどきをしながら若い二人を見守ります。
評価:★★★★☆
主なキャスト
- 車寅次郎(主人公):渥美清
- さくら(妹):倍賞千恵子
- 竜造(叔父):下條正巳
- つね(叔母):三崎千恵子
- 博(さくらの夫):前田吟
- 満男(寅次郎の甥):吉岡秀隆
- タコ社長(隣りの印刷工場の経営者):太宰久雄
- 三平(くるまやの店員):北山雅康
- 題経寺の御前様:笠智衆
- 源ちゃん(寺男):佐藤蛾次郎
- 電車の老人:イッセー尾形
- 中年のライダー:笹野高史
- 「どぜう」の店員:戸川純
- 泉の叔父:尾藤イサオ
- 泉の叔母:檀ふみ
- 泉の母:夏木マリ
- 及川泉:後藤久美子
あらすじ
寅次郎の甥っこ満男は、大学受験に失敗して浪人中。勉強に身を入れなければならない時期だというのに、高校時代の後輩だった及川泉のことばかり考えてしまう。
満男は思い切って名古屋まで会いに行くが、泉は佐賀の叔母の家に移り住んだと母親から聞かされた。満男はようやく佐賀で泉と再会するが、気むずかしい彼女の叔父には嫌われてしまう。
感想・考察
今作の時点で渥美清は還暦を過ぎ、色恋を演じるには完全にムリのある年齢。本来ならとっくに幕を降ろすべきだったシリーズですが、吉岡秀隆の存在でこのあと50作まで延命できることになりました。
’82年公開の29作「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」では、恋わずらいで寝込んだ寅次郎に「おまえもいずれ、恋をするんだろうなぁ。かわいそうに」と言われます。
「おれ、恋なんてしないよ!」と家族に宣言する満男ですが、「するする! 寅さんの血を引いてるんだもの」とのタコ社長の予言どおり、ここから満男の苦しく切ない恋物語がはじまります。
はじめての恋で、じつにぶざまな満男ですが、思い起こせば恥ずかしき恋の一つや二つ、男なら誰しも覚えがあるんじゃないでしょうか?
今作はどうしてもゴクミに注目が集まりがちですが、じつは息子に避けられる博の不憫な父親像がよく描かれています。
満男からの電話で「お父さんに代わる?」と訊くさくらに「そんな必要ない」と即答する満男。さらに「そんな必要ない」とわざわざ復唱するさくら。
受話器を受け取ろうとしていた手をそのまま降ろすところや、「息子はバイクでオヤジは自転車か」とつぶやきながらママチャリで出勤する姿に父親の悲哀を感じます。
そんな博も、若いころは父親とそりが合わずに家出。たまたまタコ社長に拾われて働きはじめたのが縁で、そこからさくらに恋をして満男が生まれたというプチ歴史が寅次郎の口から語られます。
自分も過去に同じような経験をしているから、ほんとうは満男の気持ちも理解しているいいオヤジです。
泉の叔母を演じる檀ふみは、’76年公開の18作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」で初出演。当時まだ22歳だった彼女は京マチ子の娘役を堂々とこなしていました。今作では44歳になり、落ち着いたおとなの女性になっています。
今作はゴクミと檀ふみのダブルマドンナとも言われますが、マドンナというほど寅次郎との関係はできていませんね。
できればもっと早く、渥美清がまだ元気だったころにマドンナとして再登場してほしかった女優さんです。
今作では評判の悪い泉の叔父を演じた尾藤イサオは、「あしたのジョー」や「悲しき願い」などで知られる元ロカビリー歌手。
今回の嫌味な高校教師役は、彼の陽気なキャラとはあえて正反対の役どころだったのが一興でした。
そしてもう一曲。ノリノリで歌いまくる弾けた尾藤イサオもお楽しみください。
泉の母を演じた夏木マリは、’73年にヒットした「絹の靴下」のセクシーな歌い方と手招きで、まだ小学生だったぼくにおとなの色気を教えてくれました。
歌手としても役者としてもエネルギッシュに活躍する彼女ですが、2001年のアニメ「千と千尋の神隠し」では、湯婆婆と銭婆の声も担当。また、ブルースバンドを率いて自身の半生を歌うなど、いつまでもカッコイイおばちゃんです。
今作では顔見せ程度の出演でしたが、次回作「男はつらいよ 寅次郎の休日」では寅次郎のマドンナを務めています。
寅次郎が満男に酒の飲み方を指南した浅草の「どぜう」で愛想のいい店員さんを演じたのは戸川純。「おしりだって洗ってほしい」と言うTOTOウォシュレットのテレビCMがキョーレツに印象的でした。
今ではあたりまえの洗浄機能付きの便器ですが、当時は斬新なアイデア。このCMを見ると、なるほどと思わされます。ただし、洗いすぎは良くないようですね。
ちなみに、妹の戸川京子も’79年の23作「男はつらいよ 翔んでる寅次郎」と、’82年の29作「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」に出演していました。
謎のアイテム「エヂソンバンド」とは?
今作を語るとき密かに話題となるのが「エヂソンバンド」という怪しげなアイテム。
頭に装着すると記憶力が良くなるという、じつに昭和らしいインチキ商品です。
ググってみるとヤフオクに出品されていたことがあるようで、商品説明には「朝夕10分の使用で頭脳明快・記憶力増大、頭脳を2倍3倍使える」とあり、1200円で落札されたようです。
源ちゃんは満男から1000円で買ったと言っていましたが、それが安かったのか高かったのかは判断がむずかしいところです。
しかし、こんな商品が堂々と売られていた昭和のゆるさこそ、今の時代には必要なのかもしれませんね。

