作品概要
1982(S57)年にTBSテレビ系列で放送された『幸福の黄色いハンカチ』は、1977(S52)年の同名映画をテレビドラマ化したもの。主人公に菅原文太、その妻には泉ピン子を起用し、目的地を最北の稚内に変更するなど映画版とは一味違った作品となっています。
今作はテレビドラマ1時間枠×5回と時間に余裕があるため、ロードムービーとしての描写も映画版より充実しています。そこで道産子である当ブログ管理人が御当地ネタも交えながら、各話ごとにレビューを綴ってまいります。
第1話は勇作たち主な登場人物が揃い、旅を始めるまでのエピソードが描かれています
- ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』(菅原文太主演)レビュー第2話
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主な作品データ
- 島勇作:菅原文太
- 光枝(勇作の妻):泉ピン子
- 幸子:田中好子
- ユミ:音無真喜子
- マコト:アパッチけん(中本賢)
- ヒロミ:光石研
- 製作:三船プロダクション、TBS
- 脚本:高橋正圀、朝間義隆、黒土三男
- 原作:ピート・ハミル 「黄色いリボン」
第1話レビュー:勇作の出所と過去、幸子の失恋
高倉健が主演した映画『幸福の黄色いハンカチ』は今でも根強いファンが多く、ぼくも2年に一度は見返すほど好きな作品です。しかし菅原文太が主演したこのドラマは意外と知名度が低く、DVDも今では中古しか流通していません。そのためか、インターネットでも今作について書かれたレビューはごくわずかです。
むしろドラマ版としての知名度なら、2011年に日本テレビ系列で放送された阿部寛が主演したもののほうがよく知られているかも知れません。
まず、菅原文太が主演した今作の感想を述べると、「いいね!」の一言です。
映画はストーリーを2時間程度にまとめなければなりませんが、このドラマは1時間枠×5回で約230分と時間に余裕があるため、映画版よりもストーリーが細かく描かれていたり、ロードムービーとしても当時の北海道の観光スポットが豊富に描かれています。
登場人物の設定は一部変更されており、映画で武田鉄矢が演じたお調子者の欽也はマコトとヒロミという男性2人に分割され、桃井かおりが演じた朱美も幸子という女性に変更、そのツレとしてユミという女性が1話と2話だけ登場します。
映画版の欽也と朱美をなぜ男女二人ずつに分けたかというと、たぶん幸子の失恋を映画版よりもう少し詳しく描写したかったからじゃないかと思います。
映画版の朱美は友人に恋人を奪われたことを同僚から聞かされるというアッサリした演出でしたが、ドラマでは幸子の失恋をもう少しストーリーとして膨らませるためにユミを同行させ、彼女たちをナンパさせるために若い男もマコトとヒロミに分けたんじゃないかと推測しました。
泉ピン子が演じる、ふつーのオバサンな光枝がいい!
映画版では倍賞千恵子、日本テレビ版では夏川結衣が演じた主人公の妻・光枝ですが、どちらも田舎で夫を待ち続ける女としては美人すぎます。しかし今作ではどう見てもそのへんのオバサンな泉ピン子を起用したことで、待つ女としてのリアリティーが高まっています。
もしかすると、ほんとうは待っていたわけじゃなく、誰も手を出さなかっただけかも知れません。それでも網走刑務所で離婚を言い渡された光枝が「あんたって、勝手だね」と言いながら涙を流す場面は、ピン子がうっかり美人に見えそうになるほどいい演技でした。
ちなみに、かつての網走刑務所は場所を移転して現在は「博物館網走監獄」として観光名所になっており、囚人を徴用して行われた北海道開拓の歴史が数多くのリアルな人形によって再現されています。全体を一通り見て回るだけでも1時間半から2時間はかかるほど広大かつ充実した施設となっているので、網走に行ったらぜひ立ち寄ってください。
車中泊ブームを先取り? 「走る応接間」三菱デリカ
映画版では赤いマツダ ファミリアがアイコン的な存在でしたが、このドラマでは初代の三菱 デリカが使用されています。デリカにしたのはドラマの前半でマコト・ヒロミ・幸子・ユミ・勇作の5人が乗車するため、室内が広いワゴン車が適しているためと思われます。
現在はワゴン車で車中泊を楽しむ人も多くなりましたが、今作は車中泊ブームを先取りしたような設定となっています。当時はシートベルトの着用義務もなく、同乗者がサンルーフから上半身を乗り出すところも昭和を感じさせる演出です。
くわえタバコの食堂のおばちゃん
勇作は刑務所を出たあと、網走市内の食堂で久しぶりにシャバの食事をします。映画版の高倉健は2日前から食事を抜いて撮影に臨んだほど見せ場の一つでした。
今作でも文太が演じる勇作は食堂に入りますが、食堂のおばちゃん、くわえタバコです。今じゃ考えられない接客態度ですね。
ところが勇作がビールのあと「醤油ラーメンとカツ丼」を注文すると、おかみさん、サッと顔色を変えて「はい」と一言。
もしかすると、この食堂でラーメンとカツ丼を一緒に注文するのは決まってムショ帰りの人たちだったのかも知れません。
映画版では勇作がラーメンを貪るように口に入れるシーンがありましたが、このドラマではラーメンもカツ丼も出てこないうちに場面が変わってしまいます。ハッキリ言って、「ええ!」って感じです。
6年も刑務所にいたんですから、味の濃いものを食べたくてしょうがないわけでしょ。だからラーメンとカツ丼でしょ。きっと出所前から外に出たら何を食べようか、いろいろ思い巡らせていたはずです。餃子かな? それとも焼肉かな? いや、やっぱりラーメンとカツ丼だろ! とヨダレ垂れそうになりながら楽しみにしているわけです。
そしてようやくありついたラーメンとカツ丼でしょ? それをバッサリカットしたのはマイナス20点くらいの減点です。はっきり言って監督、あんたセンスねーよ! ここだけはファンとして許せないNG場面でした。
ハガキ1枚40円? それでも映画版の2倍に値上がり
映画版では、勇作がハガキを買ったときは1枚20円でした。ところがこのドラマでは40円に値上がりしています。5年で2倍です。すげーインフレ率ですね。
これを書いている2024年、秋にはハガキ1枚63円から85円へと過去最大の値上げが予定されています。となると、これまでにハガキの価格がどのように推移してきたのか気になり、ちょっと調べてみました。
- 1972年:10円
- 1976年:20円(映画版での価格)
- 1981年:40円(今作での価格)
- 1989年:41年(消費税3%導入)
- 1994年:50円
- 2014年:52円(消費税8%に)
- 2017年:62円
- 2019年:63円(消費税10%に)
- 2024年:85円
過去45年間でハガキは10円から85円まで値上がりしたんですね。ドラマの中でも20円払った勇作は、窓口のお姉さんに「40円です」と言われていました。「え?」って感じだったでしょうね。
光枝に出所を知らせようとハガキを買った勇作ですが、なかなか書くことができません。映画ではさっさと書いてしまったためか、ドラマでは未練がましくウジウジ悩んでいる様子がよく描かれています。
網走の浜辺でまだハガキに苦心している勇作は、そこでマコトたち4人と知り合い一緒に旅をすることになりました。第1話はここまで。
ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』第1話の走行ルート
今作はロードムービーということで、マコトたちがデリカで辿ったと思うルートを検討してみました。
ただしドラマでは合理的なルートを辿るとは限りませんし、情報不足のため正確なルートは突き止められません。あくまでも、だいたいこんな道順だろう的な考察ですので、間違っていても突っ込まないように。
ドラマの冒頭では帯広の町外れでタイヤ交換していますが、その時の会話からマコトとヒロミはフェリーで苫小牧に上陸したようです。そこから帯広を経由して網走を目指していたつもりが、ヒロミのミスで真逆の釧路に向かってしまいました。
釧路のフェリーターミナルで二人連れの女子大生を乗せて阿寒湖へ行きますが、そこで外人の男に女子大生を獲られ、摩周湖を一望する美幌峠の展望台でアイヌの人たちと記念写真を撮っています。
ちなみに美幌峠から望む屈斜路湖は絶景です。屈斜路湖畔は砂湯で、手で掘ると温かい温泉が滲み出てきます。湖は水質もキレイで泳ぐこともできますしキャンプにもサイコーです。
青い恐竜みたいなのは、屈斜路湖に生息するとされている未確認生命体「クッシー」。もちろんネス湖の「ネッシー」のパクリです。
美幌峠のあとは女満別空港で幸子・ユミと出会い、小清水原生花園で記念撮影。映画では武田鉄矢の演じる欽也が「行ってもなんにもないよ!」と他の観光客に言ってましたが、さすがにそれはロケに協力してくれる地元に悪いですよね。ほんとに、なんにもありませんけどね。
この日は勇作が網走刑務所を出所して、網走市内の郵便局でユミと勇作が一瞬だけ遭遇しました。Google Mapを見るとこの郵便局は今でも同じ場所に同じ建物であるようですが、向かいにある厚生病院は建て替えられてキレイな建物に変わっています。
幸子とユミが降り立った女満別空港も、今ではすっかり立派なターミナルビルになっています。あんまりキレイすぎて、当時の田舎臭い感じのほうが親しみやすい気がするのは年寄りの戯言でしょうか?
そのあとマコトたち4人が勇作と出会った砂浜ですが、郵便局から東に400メートルほど行くとオホーツク海に出るので、たぶんそのあたりの砂浜じゃないかと思います。
第1話はサロマ湖付近を通過しているところで終わり、第2話の温根湯温泉に向かいます。