ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』(阿部寛主演)レビュー

幸福の黄色いハンカチ

作品概要

1977年に高倉健の主演で公開された映画『幸福の黄色いハンカチ』は、人と人との結びつきをハートフルに描いた名作として長年に渡って親しまれてきました。

今作は東日本大震災が起きた2011年に制作・放送された2度めのリメイク作品となります。旧2作がロードムービーの形式をとったのに対して、今作は北海道の日本海沿いにある羽幌町に舞台を固定するなど新しい設定が加えられています。

主演の阿部寛に加えて夏川結衣、草笛光子、脚本の尾崎将也と言えば、2006年に放送された人気ドラマ『結婚できない男』の面々。さらに倍賞千恵子と武田鉄矢もゲスト出演するなど映画版のファンに対するサービスも盛り込まれています。

主なキャスト・スタッフ

  • 島勇作:阿部寛
  • 島光枝:夏川結衣
  • 小川朱美:堀北真希
  • 小川早苗:荻野目慶子
  • 花田欽也:濱田岳
  • 旅館の女将:草笛光子
  • 渡辺署長:武田鉄矢
  • 農家の奥さん:倍賞千恵子
  • 企画制作:日テレ
  • 脚本・監修:山田洋次
  • 脚本:尾崎将也
  • 制作著作:松竹

あらすじ

殺人罪の刑期を終えて網走刑務所を出所した島勇作は、妻の光枝と暮した焼尻島へ帰ろうとしていた。しかし服役中に自分から離婚届を突きつけたため、今でも妻が待っていてくれるか不安で島へ渡る決心がつかない。しかし羽幌町で知り合った若い男女の支えを得て、ようやく島へ渡る決心をする。

感想:東日本大震災のあとだから、このドラマが必要だった

オリジナル版の映画『幸福の黄色いハンカチ』は1977年の公開から半世紀近くが経ち、すでにクラシック映画と呼ばれる名作となりました。同作はいまだに根強いファンが多く、このブログでもたくさんの方々にレビューを読んでいただいています。

映画『幸福の黄色いハンカチ』レビュー:実はダメな男と内気な女の成長物語?
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今作は映画版から34年経った2011年10月10日に放送されたドラマですが、じつは1982年にも菅原文太の主演でドラマ化されていることは、あまり知られていません。こちらのほうも本ブログでレビューしていますので、併せてお読みいただくようお願いします。

ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』(菅原文太主演)レビュー第1話
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過去2作が北海道を自動車で移動しながらのロードムービーだったのに対して、今作は舞台を日本海に面した羽幌町に固定しています(※焼尻島も羽幌町内)。そのため羽幌町以外のシーンは勇作が網走刑務所を出所するところだけ。次に登場したときは、もう羽幌に来ています。北海道の東端から西端まで一瞬でワープです。せめて出所後に網走の食堂でビールを飲むあのシーンくらいは撮ってほしかったと、『黄色いハンカチ』ファンなら誰もが思うところでしょう。

などと、つい過去の2作と比較しがちになりますが、時代設定も状況も違う今作と細かいところを比べてもしょうがありません。ましてや映画版や全5回で放送された旧ドラマ版と違って予算も限られた中での制作だったでしょうから、舞台を一箇所に固定したのは苦肉の策だったんでしょう。

※※※※ もしかするとムダに豪華な俳優たちのギャラが高すぎてロケに回す予算がなかったのかも? というのは心の声です。 ※※※※

羽幌町はかつて炭鉱と漁業で栄えた街ですが、炭鉱は1970年に閉山となり、炭鉱跡地は廃墟となっています。炭鉱住宅として建てられたアパートもドラマでは朱美の祖父母や父親が長年暮らした場所という設定ですが、アパートが完成したのは1969年、炭鉱が閉山したのは1970年ですから、じつはたった1年しか人が住んでいませんでした。

羽幌炭鉱跡地は廃墟や心霊スポットとして人気ですが、ヒグマの出没区域でもあるので興味本位に立ち入らないほうが身のためです。もしかすると、自分が心霊スポットの主となってしまうかも知れません。

画像はドラマからのキャプチャ。なんだか窓から誰かが覗いているような気がしますね。

あの時だからこそ求められたヒューマンストーリー

欽也は図々しくて減らず口が多かったり、会ったばかりの朱美にキスしようとするなど典型的なお調子者。そのため勇作から「少し黙ってろ!」と怒鳴られたり朱美にも嫌われるなど、最初は2人から疎ましく思われています。

勇作も阿部寛が演じているからカッコよく見えますが、流産した妻を責めたりイライラして若者を○してしまったりと、じつはとても粗暴で自分勝手で女々しい男です。それ以前にも前科があるというんですから、おまえのほうがよっぽど過去に問題あるだろと突っ込みたくなる奴です。

しかし同じ時間を共有するうち3人の心の距離は縮まり、最終的には朱美が言ったように「チーム」となりました。

年齢も性別も生きてきた背景も違う者たちが短時間でこれほど親密になることなんて、現実にはないかも知れません。とくに今では見知らぬ者同士が少しずつ理解し合うなんて面倒なプロセスは敬遠されるでしょう。それでも人々がほんとうに求めているのは、互いの違いを超えて理解しあえる、そんな人間関係かも知れません。それがただの理想でも。

『幸福の黄色いハンカチ』はもっと前から再度のドラマ化が計画されていましたが、東日本大震災が起こったことで予定を繰り上げて制作されたそうです。当時は被災地だけでなく日本じゅうが不安を抱え、心のつながりを欲していた時期だったからでしょう。

と言っても、現実にはこれほど母性豊かな女性たちがダメな男たちを受け入れることはあり得ません。エイリアンが地球を攻めてきて米軍が人類を救うくらい、あり得ないフィクションです。しかしフィクションでも、ベタな人情劇があの当時には必要だったのかも知れません。

現実が辛すぎるときに、ことさら辛い物語を観たいとは誰も思いません。たとえウソっぽくても、あり得なくても、都合良すぎても、人は心にじ〜んと響く物語を求めるものです。

現実にはあり得ないけれど、あんなこといいな、できたらいいな。そんな願いを叶えてくれるのがドラマや映画ですから、結末がわかっていようが御都合主義だろうがいいんです。だから、このドラマを過去の2作と比べることにも意味はありません。

ただ、またいつか『幸福の黄色いハンカチ』がリメイクされるとしたら、勇作はもっとダメな男が似合う人に演じてほしいですね。もう渋くてカッコいい男はいりません。次に勇作を演じるとしたら誰がいいかなと考えてみたんですが、自分しか思いつきませんでした。

ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』羽幌のロケ地はどこ?

ドラマのロケ地となった場所をGoogle Mapのストリートビューで探してみました。羽幌町は小さな町ですが映像だけを手がかりに場所を特定するのはむずかしく、またドラマが制作されてから10年以上経って町並みが変わっているところもあるので、わかる範囲で拾ってみました。

まず下痢をこらえていた欽也が駆け込んだのが左にある「沿岸バス本社ターミナル」。ここのトイレが満室だったので、隣りの「コープさっぽろ はぼろ店」に駆け込みました。どちらもまだドラマと同じ建物のまま残っています。

下は勇作と欽也が泊まった「離島会館」。こちらも当時のままで営業しています。

勇作と欽也が宿泊していた「離島会館」。当時のままのレトロな雰囲気で、ドラマと同じ気分が体験できます。

朱美が母親と営む「スナックおろろん」ですが、今はもう営業していないのかググっても情報はありませんでした。もしかすると店は架空の存在で、店内のシーンはスタジオ撮影だったのかも知れません。

さて、このレビューで当ブログは1977年の映画版、1982年のドラマ版と『幸福の黄色いハンカチ』3作すべてをコンプリートしました。映画版のレビューだけ、またはこのドラマだけをレビューしているブログは珍しくありませんが、3作すべてのレビューを書いたのはこのブログだけじゃないでしょうか? 違っていたらごめんなさい、もうしません。

御用とお急ぎのない方は、ぜひ過去作のレビューも見ていってくださいね。したっけ!

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