映画『昆虫大戦争』感想:核兵器vs生物兵器。今だから現実味のある恐怖

特撮・SF
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作品概要

映画『昆虫大戦争』は核兵器によって自国の覇権拡大を進める大国と、昆虫を生物兵器として人類滅亡を企てる女性、そのあいだで平和を守ろうとする日本人を描いたSF特撮映画。

第二次世界大戦後の東西冷戦と米軍による水爆落下事故をモチーフに、争いをやめられない人類の愚かさを描いています。

  • 監督:二本松嘉瑞
  • 脚本:高久進
  • 公開: 1968年11月9日
  • 上映時間:84分

主なキャスト

  • 南雲(昆虫学者):園井啓介
  • 譲治(南雲の協力者):川津祐介
  • ゆかり(譲治の妻):新藤恵美
  • アナベル(ユダヤ人女性):キャシー・ホーラン
  • チャーリー(麻薬中毒の米兵):チコ・ローランド
  • ゴードン中佐:ロルフ・ジェッサー

あらすじ

日本の上空で米軍の爆撃機が墜落した。昆虫の大群と衝突したことによるエンジンの破損が原因だった。乗員3名はパラシュートで脱出するが、2名は謎の死を遂げ、麻薬中毒の黒人兵チャーリーだけが保護される。

昆虫学者の南雲はゴードン中佐の「折れた矢作戦」というコードネームから、米軍が捜索している爆撃機には水爆が搭載されていることを知る。南雲の協力者として昆虫採集を行う島民のジョージは米兵殺害の濡れ衣を着せられ逃亡。彼をかくまったユダヤ人女性アナベルはナチスの収容所体験から人類を憎んでいた。

水爆の回収を急ぐゴードン中佐と、先に奪取しようとする東側のスパイ。昆虫の猛毒で人類の絶滅を企むアナベル。その中で平和を死守しようと南雲たち日本人が命をかけて戦う。

感想

今作が公開された1968年は日本にとって終戦から20数年が経ち、高度経済成長期という繁栄を謳歌していた時代です。

しかし日本人にとってはすでに「戦後」でも、海外ではアメリカを中心とする資本主義陣営(西側)とロシアを中心とする共産主義陣営(東側)が世界の覇権を争っていた「戦中」です。

今作は当時の「東西冷戦」に加えて、ユダヤ人女性が昆虫を生物兵器として人類を滅ぼそうとする三つ巴の争いが描かれていますが、ストーリーとして三つ巴は少し面倒くさい構図です。

東側のスパイとして登場する3人の日本人男性はまぬけなチンピラレベルですし、ユダヤ人のアナベルも自分が培養した昆虫に刺されて死んでしまうマヌケぶり。

ちなみにユダヤ人アナベルを演じているキャシー・ホーランは、『吸血鬼ゴケミドロ』で平和を謳いながら銃を乱射しまくったニールを演じた女性です。

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しかし、ナチスの残虐行為で人間が信じられなくなったというユダヤ人を盛り込むよりも、米ロの東西冷戦と、どこか第三国による生物兵器という構図にしたほうが見やすかったと思います。

そもそも、ユダヤ人が日本で人類滅亡を企んでいるのが謎です。ドイツでやれよ!

とは言え、核兵器と生物兵器という対称的な危機は現在でも通用する設定でしょう。むしろウイルスの脅威を実感した今だからこそ、この設定にリアリティーを感じてしまいます。

今作では米軍の爆撃機から水爆が落下しますが、これは1966年にスペイン上空で米軍機から水爆4発が落下した事故がモチーフになっています。つまり映画用に考えられたフィクションの設定ではなく、実際に起こった危機でした。

パロマレス米軍機墜落事故 - Wikipedia

日本人にとっては「戦後」80年も経った今ですが、そのあいだに核の保有国は増えてしまいました。それに加えて、もしどこかの国が生物兵器を開発したら、この映画が現実のものになってしまうかもしれません。

生物兵器は比較的安価で簡単に作れ、それでいて威力は絶大なので「貧者の核兵器」と呼ばれています。アメリカやロシア・中国など、核兵器を持つことで覇権を得ようとする「大国のエゴ」を嫌う第三国が生物兵器をバラまけば、世界はほんとうに滅亡の危機に瀕したパンデミックとなります。

そうした危機が現実味を帯びている今、今作は公開当時よりその価値を増しているように思えます。