『虹をつかむ男 南国奮斗篇』感想・レビュー(ネタバレあり):「一生の仕事」など今の時代にはありえない?

虹をつかむ男
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作品概要

『虹をつかむ男 南国奮斗篇』は映画をこよなく愛する男と、彼の周囲にいる者たちの悲喜劇を描いた物語。前作『虹をつかむ男』から設定を大幅変更しているので、前作を観たことがなくても楽しめる作品となっています。

一生の仕事とは何か? 今の時代にそれはあり得るのか?

今まであった仕事がなくなり、今までなかった仕事が生まれてくる時代だからこそ、私たち現代人にとって仕事とは何かと、自らに問い直すきっかけになる作品です。

  • 監督:山田洋次
  • 脚本:山田洋次、朝間義隆
  • 公開:1997年12月27日
  • 上映時間:112分

主なキャスト

  • 活男(映画館「オデオン座」の元館主):西田敏行
  • 松江(活男がかつて愛した女性):松坂慶子
  • 亮(活男の助手):吉岡秀隆
  • 節子(亮が愛した女性):小泉今日子
  • 清治(節子の兄):哀川翔

あらすじ

都内の家電量販店に勤める亮(吉岡秀隆)は、ある日、警察から身柄の引受を求められる。その男は、かつて亮が九州でアルバイトをしたことのある映画館「オデオン座」の館主・活男(西田敏行)だった。上京した活男は法外な料金を請求されたバーで暴れて留置場に寝かされていたという。

ひと月後。やりがいのない家電量販店の仕事を辞めた亮は、父親(笹野高史)と口論になって家を飛び出した。活男を訪ねて九州に着いた亮は「オデオン座」がすでに閉館していることに愕然とするが、活男が映画の巡業上映をしていると知って奄美へ渡る。

感想・考察:度が過ぎる妹への危ない愛情は、寅さんと妹さくらの生き写し?

前作の『虹をつかむ男』は渥美清の死去で幻となった『男はつらいよ 寅次郎花へんろ』に予定されていたキャストのまま、貧しくても好きな道で生きる男と、生き方を模索する就職浪人、人生への不安を男に頼って解決する女、三者三様の生き方を描いた物語でした。

二作目となる『虹をつかむ男 南国奮斗篇』は設定を一新しているため、続編と言うよりもパラレルワールド的な物語となっています。

今作では活男と松江、亮と節子という二組の物語が描かれていますが、どちらかと言えば後者の若いカップルがメインという感じです。

亮が惚れた節子はワケアリで奄美の実家に帰ってきますが、兄の清治(哀川翔)は子づれで戻ってきた節子に厳しく当たります。さらには、節子を訪ねてきた亮を追いかけて殴り倒す粗暴さ。こうした態度は、清治の節子に対する過剰な近親愛をあらわしています。

幻となった『男はつらいよ 寅次郎花へんろ』では、乱暴者の兄(西田敏行)の妹(田中裕子)に対する過剰な近親愛が予定されていたそうですが、この設定が清治と節子に移植されたようです。

そして山田洋次監督が前作に続けて言いたかったのは、「一生の仕事を見つけろ」ということのようです。

しかし、そんなことが今の時代に可能でしょうか? というのがこのレビューのテーマです。

これからの時代はコミュニケーションスキルが必須?

情熱を持って一生できる仕事。それで生きていければ、こんな幸せなことはありません。しかし、現実にはかなりむずかしい話です。

AI(人工知能)の進化で近い将来は多くの職業がなくなると言われています。人口減やコスト削減に対応するには機械化・自動化が進むのは当然なので、今はまだ人間が行っている仕事も、その多くが無くなるでしょう。

そのかわり、AI時代には今までなかった新しい職種が生まれると言われています。それが具体的にどんな職種かはわかりませんが、今作が公開された当時にYouTuberなど予想できなかったように、これからは新しい職種がどんどん生まれてくるかもしれません。

そんな時代になっていく現代では、「一生の仕事」という概念そのものが成立しないかもしれません。

ひとつの道で熟練すれば、企業に頼らず生きていける。そう思えたのは今作の時代までとも言えます。

これからどんなスキルが求められるかはわかりませんが、コミュニケーションスキルが今までより重視されていくのは間違いありません。

映写機の修理に手間取り客が苛立ち始めたとき、活男が歌い始め、それをきっかけにみんなが踊り始めてしまいます。

一触即発の雰囲気から一点、みんなが楽しげに踊りだす。亮は映画はどうするんだよ、という顔をして見ていますが、こんな芸当ができる活男は無敵のコミュニケーションスキルの持ち主です。

映画ですからオーバーに描かれていますが、活男のように当意即妙なコミュニケーションスキルが発揮できれば、どんな仕事でも使える人材として生きていけそうです。

それが一番むずかしいんですけどね。