男はつらいよ 寅次郎の青春(45作)髪結いの亭主なら寅にも務まる?

男はつらいよ
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク

作品概要

「男はつらいよ 寅次郎の青春」は1992年12月26日公開のシリーズ45作。

寅次郎のマドンナに風吹ジュンを迎えてフランス映画「髪結いの亭主」をオマージュしたストーリー。そして満男のマドンナ泉には、またもや不幸が降りかかります。

評価:★★★☆☆

主なキャスト

  • 車寅次郎(主人公):渥美清
  • さくら(妹):倍賞千恵子
  • 竜造(叔父):下條正巳
  • つね(叔母):三崎千恵子
  • 博(さくらの夫):前田吟
  • 満男(寅次郎の甥):吉岡秀隆
  • タコ社長(隣りの印刷工場の経営者):太宰久雄
  • 三平(くるまやの店員):北山雅康
  • 題経寺の御前様:笠智衆
  • 源ちゃん(寺男):佐藤蛾次郎
  • 竜介:永瀬正敏
  • 蝶子:風吹ジュン
  • 泉:後藤久美子

あらすじ

東京のCDショップに就職した泉は、友達の結婚式に出るため宮崎県に来ていた。ちょうどそのころ寅次郎も宮崎を訪れ、床屋を営む蝶子と知りあう。寅次郎は蝶子と外出中、泉とバッタリ出会うが足をくじいてしまった。知らせを受けた満男は母さくらたちにケガの様子を大げさに伝え、泉に会うため宮崎に急ぐ。

感想・考察

42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」から続いた満男のマドンナ泉ちゃんシリーズは今作でいったん終了。48作で再び登場しますが、この時点では今後の満男のマドンナには他の女優を起用しようと思っていたのかもしれません。

そのため今作は泉が満男と別れる前提となっているためか、かなりご都合主義で雑なストーリー展開なのが気になります。

まず、泉は名古屋の高校を卒業して東京のCDショップで働いていますが、中学時代に吹奏楽部だった彼女が働きたかったのは楽器店だったんじゃないでしょうか?

前作「男はつらいよ 寅次郎の告白」でも楽器店だから面接のために上京しています。CDショップで働くくらいなら、タコ社長が言ったとおり朝日印刷に勤めてもいいでしょう。

また、泉が宮崎を訪れるとそこに寅次郎もいたという筋書きも、前作と同じパターン。広い日本でこれほど立て続けにバッタリ出会うなんてことは、どちらかがストーカーでもないとあり得ません。

最後は母親の看病のために名古屋へ戻る筋書きなので、このあたりは深く考えていないようです。

床屋の蝶子も、一度だけ来店してプロポーズされた男を今でも思っているという、純情なんだかア〇なんだかわからないキャラです。「あ~あ、どっかにいい男でもおらんじゃろか」なんて、昼間から吠えてるような男日照りの女を風吹ジュンに演じさせるのはミスキャストとしか思えません。

寅にとってのリリーと同じく、泉は満男の永遠のマドンナ

ー度来ただけの男を待っている蝶子の話を聞いた満男は「ロマンチックだな」と言いますが、泉は「そう思わない」と即答。

「幸せを待つなんてイヤ。幸せが男の人という考え方もキライ。幸せは自分でつかむの!」

なんか聞き覚えのあるセリフだなと思い出すと、15作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」でリリーが寅次郎に言った「女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい?」というセリフとそっくりです。

リリーもダメな母親のせいで、若いころから旅回りの人生。男の寅次郎よりも苦労を重ねているだけに、気の強さもハンパありません。

泉も両親の離婚のために転校を重ね、進学もあきらめて就職したレコード店も母親の看病のために辞めることになってしまいます。踏んだり蹴ったりですね。

ふつうならヤケになるところですが、そんな現実を受けとめつつも泉は幸せをつかむことをあきらめません。まるで泉が肉食のメスライオンなら、満男はエサとなる草食のシマウマのようです。

ライオンはメスが狩りをしてオスが先に食べるそうですが、これって今作のモチーフになっている「髪結いの亭主」と同じですね。

寅次郎を冷静に観察できるほど成長した満男

不幸続きの泉とつきあうようになってから、平々凡々と生きてきた満男もそれなりに成長しています。また、たった一人の伯父である寅次郎のことも理解できるようになりました。

宮崎を離れるとき、蝶子のもとに残るべきだと言う泉に満男は反対します。

「最初はいいよ。伯父さんは人を笑わせるのがウマイし楽しい人だから。けど、伯父さんは楽しいだけで奥行きがないから一年もすれば飽きてしまう。伯父さんは、そのことをよく知ってんだ。だから帰ることを選んだんだ」

ここまで寅次郎を冷静に分析し、本人の前で明らかにした人はいません。甥っ子の満男に言われた寅次郎としては少なからずショックでしょう。しかし、こうした満男の人間を観察する目は、やがて作家として成功する素養となったようです。

蝶子たちが乗るかわいいオープンカーは?

蝶子と竜介が乗っている白いオープンカー、きっと今の若い世代なら「なにこれカワイイ!」と思うんじゃないでしょうか?

このクルマは1984年に発売された「ホンダ シティ カブリオレ」。ベースとなったのは1981年発売の「ホンダ シティ」という1200㏄の小型車で、インパクトのあるテレビCMであっという間に大ヒットしたクルマの派生モデルです。

南国の宮崎を颯爽と走る「シティ カブリオレ」。これがもし「ワーゲン ビートル」のオープンカーだとわざとらしくてダサくなりますが、「シティ カブリオレ」なら小粋でイヤミも感じませんね。

今の時代はやたら四角い車体とか、ツリ目でエラの張った醜い顔のクルマばかりですが、80年代や90年代の前半には、こんなポップなクルマが走り回っていたいい時代でした。

泉に歌って聞かせた客が探していた曲

歌詞もタイトルも知らないけれどレコードを探してくれと言って泉の前で歌いだした客。その曲が「石狩挽歌」でした。

北海道の小樽で行われたニシン漁をテーマにした曲で、1975年に北原ミレイの歌でヒット。その後は多くの歌手にカバーされ、演歌のスタンダードナンバーとなっています。

御前様、最後の出演作

1作目から帝釈天こと題経寺の御前様(住職)を演じてきた笠智衆は、今作が公開された3か月後の1993年3月16日に88歳で亡くなっています。

今作が遺作になるだろうことは、山田洋次監督は予期していたのかもしれません。

「髪結いの亭主なら寅にも務まると思いませんか、さくらさん。二人が結ばれたら門前町に小さな店をもたせて、週に一度きれいな女将さんの手で、わたしの頭を剃ってもらうんです」

御前様はいつになく寅次郎の生き方を認めたというか、あきらめたようなことを言っています。

セリフを聞くとかなり声が出にくくなってはいますが、とても撮影から半年後に亡くなるとは見えません。

合掌。