作品概要
シリーズ8作目となる『男はつらいよ 寅次郎恋歌』は、1971年12月29日の公開。
マドンナに池内淳子を迎え、旅に生きる人生と一つ所で生きる人生の対比を描いた今作は、シリーズの中でも傑作となっています。
評価:★★★★★
主なキャスト
- 寅次郎:渥美清
- さくら:倍賞千恵子
- おいちゃん(竜造):森川信
- おばちゃん(つね):三崎千恵子
- 博:前田吟
- 小百合:岡本茉利
- 飈一郎:志村喬
- 貴子:池内淳子
あらすじ
博の母親が亡くなった。岡山で葬儀が営まれている中、寅次郎が焼香に現れる。しかし、写真撮影で「はい、笑ってぇ!」と声をかけたり不謹慎な言動の寅次郎に気が気でない妹さくらだった。
「とらや」の近所で喫茶店を開いた貴子が開店のあいさつに来た。まるで貴子の美しさに引き寄せられるように柴又へ帰ってきた寅次郎。
学校になじめずにいた貴子の息子マナブを地元の子どもたちと仲良くさせたことで二人は親密になるが、貴子はカネに困っている様子。腕の一本や片足くらいならと言う寅次郎の言葉に涙する貴子は、今の暮らしを捨てて旅に出たいと言う。
感想・考察
気ままな旅の暮らしと、一つ所で生きる暮らし。隣の芝生は青く見えると言うように、人は自分と違う人生のいいところばかり目に映るのかもしれません。
寅次郎は第5作「男はつらいよ 望郷篇」でも旅を捨てて一つ所で生きる暮らしを選ぼうとしましたが、やっぱりできませんでした。好きで旅を続けているのか、それとも、そんな生き方しかできないだけなのか。それは、寅次郎自身にもわからないのかもしれません。
そんな旅から旅への生き方を貴子はうらやましいと言いますが、「そんなにうらやましがられるもんじゃねえんですけどねぇ」とつぶやく寅次郎の言葉は、今の暮らしから逃げたいと願うだけの貴子には伝わらない。
旅は帰る場所があるから旅。帰る場所がなければ、ただの放浪です。
「兄ちゃんの、こんな暮らしがうらやましいと思ったことがあるかい?」と訊かれて「あるわ」と答えるさくら。その言葉に驚く寅次郎ですが、さくらには今の生活を否定する気持ちはありません。ただ、一度でいいから自分のことを兄に心配させてやりたいだけです。
旅にあこがれる女として貴子が描かれる一方で、冒頭では幼いながら旅の辛さを知っている女として旅芸人の小百合が描かれています。「つれえことはないかい?」と訊く寅次郎に「それはありますけど、舞台に立ったら忘れます」と健気に答える小百合とは、これからも何度か旅先で再会することになります。
ドラマ時代から竜造おいちゃんを演じてきた森川信は、今作の公開から3か月後に肝硬変で急死し、これが遺作となりました。軽快でコミカルな演技は歴代のおいちゃんの中で最も寅次郎と相性が良かっただけに残念です。合掌。

